49話 ファーストキス


「ちょ、ちょっと待ってください!? しょ、勝利条件は俺を〝その気にさせて一線を越えさせる〟ことであって、う、奪う感じはノーカウントなのでは!?」



 当然、なんとか説得を試みる俺だったのだが、雪菜さんは「あら」と妖艶に上目を向けて言った。



「つまり弟くんはいざとなった時に我慢出来る自信があると?」



「そ、それは……」



「私ね、いっぱい勉強したの。絶対に弟くんが私から離れていかないよう、私のことしか考えられなくなるくらい溺れさせようって」



「お、溺れ……っ!?」



「そうよ。その私がこれから本気であなたを落としにかかるの。どんなことになると思う?」



「ど、どんなって……」



 い、いかん!?


 これは想像しちゃダメなやつだ!?


 ぶんぶんとかぶりを振って桃色の場景を払拭しようとした俺だったのだが、



 ――ぎゅうっ。



「ふふ、捕まえた♪」



「――っ!?」



 一瞬の隙をつかれてハグされてしまった。


 しかも。



「のわあっ!?」



 どさりっ、とそのままベッドに押し倒されてしまう。


 当然、俺は衝撃で雪菜さんに怪我がないよう咄嗟に彼女を抱き返し済みだ。


 おかげで雪菜さんの温もりやら柔らかさがいつも以上にダイレクトに伝わり、思わず俺はその姿勢のまま固まってしまった。


 そんな俺に、雪菜さんが囁くように言う。



「ねえ、興奮してる? 私はしてるわ」



「お、俺は……」



「ふふ、知ってる。だってあなたの身体、とっても熱くなっているんだもの」



「~~っ!?」



 さらにぎゅっと距離を縮めてくる雪菜さんに、俺の中で色々なものが堪らなくなる。


 このままでは狼さんになってしまうのは言わずもがな、暴発(意味深)の危険性も十二分にあるため、俺は最後の理性を振り絞って言った。



「ゆ、雪菜さん、そろそろ本当に……っ」



「我慢出来なくなっちゃいそう? ふふ、分かったわ」



 そう言って雪菜さんが身体を起こそうとする。


 それで一瞬ほっとしてしまったのがよくなった。



「大好きよ、弟くん」



「……えっ? ――んんっ!?」



 その日、俺ははじめて〝キス〟というものを経験した。



      ◇



「その、ごめんなさい、弟くん……。まさかそんなに興奮してくれているとは思わなかったから……」



「いえ、いいんです……。ちょっと俺に耐性がなさすぎただけなんです……」



 ずーんっ、と死んだ目で膝を抱えながら、俺は雪菜さんにそう告げる。


 その装いは先ほどまでの制服とは違い、がっつり室内着であった。


 何があったのかはお察しのとおりである。


 というより、恋愛経験の乏しい童貞があんな刺激になど耐えられるはずがなかったのだ。


 何せ、雪菜さんは超が付くほどの美女である。


 そんな美女が大きなおっぱいを押しつけながら耳元に熱い吐息を吹きかけてくるだけでも限界だったというのに、そこにまさかの……き、キスをされたらそりゃね……。


 暴発もしますよ、はい……。



「本当にごめんなさい……。せっかくのファーストキスだったのに……」



「い、いえ、それはあの……う、嬉しかったというか……」



「……本当に? 嫌じゃなかった……?」



 至極不安そうに尋ねてくる雪菜さんに、俺は微笑みながら頷いて言った。



「もちろんです。む、むしろ雪菜さんは本当に俺でよかったのかなと……」



 そして恥じらいながら視線を逸らす俺に、今度は雪菜さんの方が頷いてくれる。



「ええ、もちろんよ。だって私、あなたのことが大好きだもの」



「な、ならよかったです……」



「ふふ、だから少しずつ慣らしていきましょう。私、もっともっとあなたに喜んでもらえるように勉強するから」



「うっ……。そ、その、お手柔らかにお願いします……」



 いつもなら突っ込みの一つでも入れているところなのだが、今の俺にはもう素直に頷くことしか出来なかったのだった。



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