54話 好きな人


 翌日の日曜日。


 合コンの報告もかねて午前中から雪菜さんがうちに来ていたのだが、



「ちょ、雪菜さん、姉さんがすぐ戻って来ちゃいますから……」



「……ダメ。弟くん分が全然足りていないんだもの……」



 ――ぎゅ~っ。



「~~っ!?」



 というように、俺は先ほどから熱いハグを受け続けていた。


 どうやら昨日一日会えなかったことが相当不満だったらしい。


 しかもちゃんと趣旨を伝えたとはいえ、その内容が合コンだったというのがさらに拍車をかけているようだった。



「ほ、ほら、雪菜さん、そろそろ……」



「……まだダメ」



 まだダメかぁ……。


 ならしょうがないなぁ……、と俺がまた姉さんに怒られることを覚悟していると、雪菜さんがふふっと微笑みながら身体を離して言った。



「ごめんなさい、冗談よ。さすがにそこまでわがままなことは言わないわ」



「雪菜さん……」



「ふふ、だからあとで我慢したご褒美にいっぱいキスしてね」



「……うん?」



 え、あれ……うん?



      ◇



 ともあれ、予定通り姉さんを交えての報告会が行われる。



「なるほど。お付き合いをするかどうかは別として、ひより的には結構楽しかったのね?」



「うん! 二人とも凄くいい人だったしね! まあ黒ギャルさんのお尻と煮卵に関してはよく分からなかったんだけど……」



 そこは突っ込まないでやってください……。


 てか、姉さんにもその話してたのかよ!?


 何してんだキムたっくん!?



「そう。ひよりが楽しかったのならよかったわ。とりあえずお友達から始めていく感じかしら?」



「そうだねー。一応連絡先も交換してるし、また今度一緒に遊びに行けたらいいなって」



「あら、じゃあ意外と脈ありみたいな?」



「えへへ~、そうなのかなぁ~」



 にへら、と少々恥ずかしそうに笑った後、姉さんは雪菜さんに言った。



「そういえば雪菜は彼氏とか作ったりしないの? あたし、すんごい応援するよ~!」



「あら、本当に?」



「もちろん! だって大事な親友の恋だもん! 応援するに決まってるじゃん!」



 両手を胸元でぐっと握りながら言う姉さんに、雪菜さんも嬉しそうな様子だ。


 そんな中、続けて姉さんが雪菜さんに尋ねた。



「で、雪菜って好きな人いるの?」



 その問いに、雪菜さんは即答した。



「ええ、いるわよ」



「え、そうなの!? うわぁ~どんな人なんだろう~! 気になる~!」



 当然、好奇心に両目を輝かせる姉さんとは裏腹に、俺は白目を剥きそうになっていた。


 だってその好きな人、たぶん目の前にいますしね……。



「ふふ、そんなに気になる?」



「うん! え、芸能人だと誰に似てるとかある?」



「うーん、そうねぇ。とくに誰にというわけではないのだけれど、しいて言えば弟くんかしら?」



「えー」



 おいなんだそのあからさまにがっかりした感じは。


 口が〝3〟みたいになってるじゃねえか。



「あら、私は可愛いと思うのだけれど。弟くんの顔」



「えー、でも照でしょ? なんかむっつりっぽくない?」



「おう、どういう意味だこの野郎」



 てか、〝むっつりっぽい顔〟ってなんだよ。



「いや、だって照いっつも雪菜のおっぱいばっか見てるんだもん。お姉ちゃん気づいてるんだからね?」



「あらあら、うふふ。もしかして甘えたいのかしら?」



「い、いえ、別にそういうわけでは……」



 割と図星を突かれ、俺は顔を赤くしながら小さくなる。


 すると、そんな俺を見やりながら雪菜さんが頬に手を添えたまま言った。



「ほら、こういう照れてるところとか可愛くない? 思わずぎゅってしてあげたくなっちゃうっていうか」



「まあ言いたいことは分からなくはないんだけどさー……」



 ちらり、と姉さんと視線が合う。


 が、何をとち狂ったのか、姉さんはばばっと胸元を隠して言ったのだった。



「あ、あたしはおっぱいでぎゅっとかしないんだからね!」



「いやいやいや……」



 そもそも出来るようなものがないだろ……。



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