28話 いざ合戦の刻1
その夜、俺は久しぶりにじいちゃんに電話をした。
こうなった以上、もう百戦錬磨(?)のじいちゃんに縋るほかなかったからだ。
『どうした? 何があった?』
「……っ」
だが俺は何も言えなかった。
当然だろう。
元々俺は陰キャのヘタレ野郎なのだ。
カラオケの時はたまたま我慢出来ないほど腹が立ったから言ってやっただけであって、普段の俺にあんながつんと言う勇気はない。
だから言えなかった。
いや、言えるはずもなかった。
〝明日はじめてえっちなことをするかもしれないのでどうすればいいか教えてくれ〟なんて、そんな恥ずかしいこと言えるものか……っ。
が。
『……ちょっと待ってろ』
じいちゃんは全てを察したかのようにそう言うと、しばし電話口から離れ――。
――ぶおぶおおおお~!
「!」
猛き法螺貝の音とともに戻ってきた。
それはさながら合戦の地に響く陣貝のように、電話口から俺を鼓舞し続けていてくれたのである。
そしてじいちゃんは言った。
『……よく覚えておけ、照。男にはな、たとえそいつが罠だと分かっていたとしても退けねえ時があるんだ。じいちゃんはそうして〝トロールスレイヤー〟と呼ばれた』
「じいちゃん……っ」
正直、それがどういう意味なのかはよく分からなかった。
でもなんかすんごい勇気をもらえた気がした俺は、溢れそうになる涙をぐっと堪えながらじいちゃんにお礼を言い、電話を切った。
そして「漢、小日向照――参るッ!」と決意を胸に明日への一歩(お布団へ)を踏み出したのが昨日のこと。
「あら、いらっしゃい。どうぞ上がってちょうだい」
「お、おおお邪魔しましゅ!?」
だがそんな決意やらなんやらも雪菜さんを前にした瞬間、全部まとめて吹き飛んでしまったのだった。
ちなみに昨日は興奮しすぎて一睡も出来ませんでした……。
◇
雪菜さんのお家はおしゃれな感じの二階建て一軒家で、俺の家からは電車で二駅ほど離れた隣町の閑静な住宅街にあった。
外観同様、家の中も綺麗に整頓されており、お掃除が隅々にまで行き届いているのが手に取るように分かった。
そんなお家の階段を上り、雪菜さんのお部屋があるという二階へと赴いた俺は、〝YUKINA〟と可愛らしいプレートが飾られた扉を恐る恐る開ける。
「――っ!?」
その瞬間、なんともいい匂いが鼻腔をくすぐり、俺は(こ、これが夢にまで見た女子の部屋……っ!)とテンションあげあげになったのだが、よくよく考えたら女子の部屋にはほぼ毎日入り浸っていたので、俺はそっちの方の記憶をそっと消去したのだった。
「ここが雪菜さんの……」
ともあれ、雪菜さんのお部屋はとても清潔感に溢れたお部屋だった。
白木の家具にピンクのカーテンなどを合わせた可愛らしいお部屋だ。
ベッドには以前俺がゲーセンでプレゼントしたぬいぐるみも置いてあり、ちゃんと大事にしてくれているようだった。
なんか嬉しいなぁ……、と俺が温かい気持ちになっていると、雪菜さんがおぼんにお菓子などを載せて姿を現した。
「お待たせ。冷たいお茶でよかったかしら?」
「あ、はい。ありがとうございます」
ことり、とローテーブルの上にグラスを置きながら、「それとね」と雪菜さんは近くのタンスを指差して言った。
「あそこの一番上の引き出しが私の下着入れなの」
「へえ、そうなんですねー」
――ごくごく。
「って、ぶふうっ!? ちょっ、い、いきなり何言ってるんですか!?」
雑に口元を拭いつつ、俺は狼狽しながら雪菜さんに問う。
あまりにも自然な流れで言うから普通に返答しちまったじゃねえか!?
「いえ、興味あるかなと思って。もしかしてもう知っていたかしら?」
「し、知りませんよ!? そ、そんな非常識なことするはずないじゃないですか!?」
「あら、それは残念。弟くんになら別によかったのに」
「……えっ?」
呆然と両目を瞬く俺に、雪菜さんがふふっと妖艶に笑って言う。
「それとも弟くんはこういう身につけている方が好きだったかしら?」
「――っ!?」
そしてちらりとブラ紐を見せつけてくる雪菜さんに、俺はここがすでに敵陣のど真ん中であることを改めて知るのだった。
た、助けてくれ、トロールスレイヤー!?
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