45話 育乳
「……うん? あれ、なんか照顔赤くない? 風邪?」
「い、いや、ちょっとストレッチをね?」
「ストレッチ?」
ふふっと雪菜さんがおかしそうに笑う中、姉さんがクッションに腰を下ろす。
そうしてずずずとお茶を啜った後、「あ、そうだ」と少々恥ずかしそうに言った。
「ストレッチで思い出したんだけどさ~、雪菜にちょっとお願いしたいことがあるんだよね~」
「あら、何かしら?」
可愛らしく小首を傾げる雪菜さんに、姉さんはげふんっと一つ咳払いをしたかと思うと、土下座しそうな勢いでこう言った。
「――是非雪菜先生にあたしのおっぱいを揉んで欲しいんです!」
「ぶふうっ!?」
堪らずお茶を噴き出す俺。
「ちょ、人の部屋で何してんのよ!?」
「そ、それはこっちの台詞だろ!? ね、姉さんこそ何考えてんだよ!?」
ティッシュで飛び散ったお茶を拭きつつ、俺は姉さんに声を張り上げる。
すると、姉さんは黄昏れたように虚空を見据えて言った。
「あたしね、この前遊園地に行った時思ったの。雪菜は当然として、湖ちゃんも、雫ちゃんも、皆おっぱい大きくていいなって。あたし一人だけフリーフォールじゃんって」
「フリーフォール……」
やめろよ、そういう例え。
笑っちゃいけないけど噴き出しそうになっただろうが。
「……ん、んっ、ごほっ……!?」
てか、雪菜さんまで変なツボに入ってるだろ。
なんか凄い不自然に咳き込んでるし。
「……だ、だから私に胸を揉んで欲しいと?」
「うん。あたし、湖ちゃんに聞いたんだ。おっぱいは単に揉むだけじゃ大きくならないって。大好きな人に揉んでもらってはじめて大きくなるんだって」
「ひより……」
たまにまともなこと言うんだよなぁ、あの人……。
「私もひよりのことは大好きよ。だから今すぐにでも弟くんと結婚してあなたの妹になりたいとすら思っているわ」
……うん?
「でもたぶん琴浦さんの言う〝大好き〟と、ひよりの言う〝大好き〟はちょっと違うんじゃないかしら?」
「えっ?」
「というのもね、おっぱいって基本的に脂肪の塊だから、揉んだら脂肪が燃焼して小さくなっちゃうのよ?」
「え、そうなの!?」
びくり、とすこぶるショックを受けている様子の姉さんに、雪菜さんは頷いて言う。
「ええ。だから揉み方にもちゃんと方法があって、お風呂とかで優しく血流をよくするような感じで揉むのがいいの。じゃないと靱帯を痛めて垂れる原因にもなってしまうわ」
「そ、そんな……」
「で、さっきの話に戻るのだけれど、血流をよくする以外にもう一つおっぱいを揉んで大きくする方法があってね。それがドキドキすることによる〝女性ホルモンの活発化〟よ」
「ホルモン……っ」
たぶん今姉さんの頭の中に浮かんでるの絶対焼肉の方だろうなぁ……。
遊園地でもめっちゃホルモン食ってたし。
「そう、ホルモンよ。つまり恋愛的な意味合いで大好きな人に揉んでもらうことが大事なの。だから私が揉んでもきっと大きくはならないわ。力になれなくてごめんなさいね」
「そっかぁ……。いい方法だと思ったんだけどなぁ……」
しょんぼりと机に突っ伏す姉さんの頭を、雪菜さんが優しく撫でながら言う。
「大丈夫よ。ほかにも色々と大きくする方法はあるし、何よりまだまだ成長期じゃない。そんなに気にする必要はないわ」
「……うん。ありがと、雪菜……」
そう頷き、気持ちよさそうになでなでされていた姉さんだったのだが、
「でもまさか照に彼女が出来るとは思わなかったなぁ……」
「えっ?」「――」
その瞬間、ぴたりと雪菜さんの撫でる手が止まる。
ちょ、姉さん? 姉さん!?
「まあお姉ちゃん的には複雑な心境なんだけどさー、でも照もお年頃だし、しょうがないよねー……」
と。
「何を言っているの? ひより。弟くんに彼女なんていないわよ?」
「えっ? でも雫ちゃんと凄く楽しそうにデートしてたけど……」
ぱちくりと両目を瞬く姉さんに、雪菜さんはふっと微笑んで言った。
「あれはね、ただの〝幻術〟よ」
「幻術!? じゃ、じゃあ雫ちゃんは……」
「そんな人は最初からいなかったわ」
「はわわわわ……っ!? って、そんなわけないじゃーん。もう雪菜ったらおちゃめさんだなぁ」
あはははは、と楽しそうに笑う姉さんに、雪菜さんも「うふふふふ」とお上品な笑みを浮かべる。
そして彼女はそのままスマホを高速でタッチし、何かを検索し始めた。
なので俺はそれを背後からちらりと覗いてみたのだが、
『弟くん 即落ち 媚薬 作り方』
「……」
そんな検索ワードが見え、俺はお食事には気をつけようと微笑みながら夕焼け空を見据えていたのだった。
てか、そんなピンポイントで効く媚薬があって堪るか!?
※読んでくださって本当にありがとうございます!
なるべくコンスタントに続けていこうと思いますので、ブックマークや☆評価などで応援してもらえたら嬉しいです!
どうぞよろしくお願いします!m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます