8話 空き教室にて
「……で、さっきのは一体なんだったんですか?」
そんなこんなでたまたま開いていた倉庫代わりの教室へと緊急退避した俺は、呼吸を整えつつ、そう雪菜さんに半眼を向ける。
すると、彼女は「なんのことかしら?」ととぼけるように小首を傾げていた。
「いや、だからその……俺の彼女になりたい、的な……」
「ごめんなさい。実は私、昨日お耳のお掃除を怠ってしまったから全然聞こえないの。もっと大きな声で言ってもらえないかしら?」
「えっ?」
いや、さっき普通に応対してただろ……。
まったくこの人は……、と俺ががっくり肩を落としていた時のことだ。
――ずいっ。
「うおっ!?」
いきなり雪菜さんが距離を詰めてきて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
シャンプーのいい匂いが俺の鼻腔をくすぐる中、雪菜さんは左の耳に髪の毛を掻き上げて言う。
「ほら、聞かせて。出来れば囁くように言ってちょうだい。――〝俺の彼女になってくれ〟って」
「ぐっ、う……」
不覚にもここまでお膳立てされてしまったのだ。
ならば俺も男として言うしかあるまい。
ぐっと拳を握り、俺は意を決して口を開く。
「お、俺の彼女に……って、うん?」
いや、ちげえよ!?
なんか流れに釣られて言いそうになってたけど、俺は雪菜さんが俺の彼女になりたいとかわけの分からんことを言ってたから、それについて言及しようとしてたんだろ!?
なんで俺が告るみたいな感じになってるんだよ!?
「ええ、いいわ。付き合いましょう」
「いや、勝手にOKしないでください!? まだ何も言ってないでしょ!?」
「でも私、気分的にはもう完全に彼女のそれなのだけれど」
「なら早々に気分転換してください!? なんなら窓でも開けましょうか!?」
「え、でも皆に見られちゃう……」
いや、何を恥ずかしがってるんだこの人は……。
そういう台詞は色々とお取り込み中の時に言ってくれ……。
「ほら、あそこのサラリーマン、こっちを見てるぞ?」みたいな。
……。
いや、なんの話だよ!? と自分で自分に突っ込みを入れつつ、俺は未だ恥じらっている様子の雪菜さんに尋ねる。
「まあその話は置いといて……。何か俺に用があったんじゃないんですか?」
「あら、置いとかれてしまったわ。せっかくこんな美女を好きに出来るチャンスだったのに」
「いや、好きに出来るチャンスって……。もし俺が本当に好きにしてたらどうする気だったんですか……」
「そうね、その時はいっぱいご奉仕していたかしら?」
「……」
だ、騙されるな俺!?
そ、そんなことあるわけないだろ!?
そういうことはきちんとお金を払わないとしてもらえないってじいちゃんも言ってたんだ!?
俺はじいちゃんを信じるぞ!? と俺が内心色々な葛藤を抱えていると、雪菜さんがふふっとおかしそうに笑って言った。
「弟くんは本当に正直な子ね」
「ぐぬぬぬぬ……っ」
何も反論出来ない……っ。
そう一人唇を噛み締める俺に、雪菜さんはやはり微笑んで言った。
「実はね、今日はひよりとお昼をご一緒する予定だったの」
「……姉さんと?」
「ええ。まあいつも大体彼女と一緒に食べているのだけれど、今日は助っ人を頼まれている部活の集まりがあるらしくてね。それも急に予定が入っちゃったみたいだったから、謝られながらこう言われたの。〝代わりに照と食べてきてよ! どうせあいつ一人だろうし!〟って」
「……」
いや、あながち間違っちゃいないんだけど言い方ぁ……。
てか、〝どうせ一人だろうし〟ってどういうことだよ。
俺にだって友だちくらい……くらい……。
「……じゃあ、一緒に食べましょうか……」
「ええ、そうしてもらえたら嬉しいわ」
にこり、と可愛らしく微笑む雪菜さんに、俺はもうなんか色々と泣き笑いみたいな感情になっていたのだった。
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