11.ずっと心の中にあった想いを声に

「何が可笑しいのよ」


 不服そうに言う麻琴の表情を見て私は少し冷静さを取り戻す。


「そんなに余裕の笑みが出来るなら聞きたいことも聞けるでしょ」


 ソファーに体を沈めたままの私の上に跨る麻琴が、私の鼻先を突っつく。この体勢は恥ずかしいけど押しつぶさないように、程よく体重をかけてくれている麻琴と触れ合う部分から伝わる温もりが離れて欲しくないから動かないように気を付ける。


 ふんっと笑う麻琴は麻宏に近い部分を覗かせるけどちょっと違ってて自然に感じる。


「じゃあ、麻琴は小さい頃、昔右胸に薔薇と蝶の刺青をした女の子と出会ったことがある?」


「ええ」


「それじゃあ、私がその子だって気が付いたのはいつ?」


「飾切がメールをくれてから。初恋の人を探してるって内容と『てふてふ』って名前から何となく思い出した感じかな。でもね、まさか画面の向こうの子が飾切とは思わなかったけど」


 可笑しそうに笑う麻琴の瞳には、思い出し笑いの影が見える。大方私が必死に考えたハンドルネームと文面を思い出して笑っていると言ったところだろう。


「なに? 笑われて不服って顔して。飾切は顔に出過ぎなんだって」


「ちょっと、私が質問してるのに割り込まないでくれる。そもそも麻琴は

 なんでそんなに喋るわけ? 私が知ってる感じだともっとめんどくさそうに話すんだけど」


「知ってる感じねぇ。どちらかと言えばこっちが自然体なんだけど」


「へぇ~隠さない感じなんだ。もっとごまかしてくるかと思ったんだけど」


「今更ごまかしたって仕方ないでしょ。そもそも麻琴が麻宏であることを含めて知りたかったから会おうとしたわけだから遅かれ早かれ言うことになるんだし」


 そう言った麻琴がニヤリと笑いながら私の両肩を押さえつけてくる。


「ってことで、予定通り確かめ合おうっか?」


「ちょっ、ちょっと待って! 順番! 順序! 後、ここは嫌だ」


「順番?」


「そっ、順番。私はもう一個確かめたいことがあるの」


 私に覆いかぶさる麻琴が不思議そうな顔をすると、手を緩めて体を起こして私を見下ろす。

 このままの恰好でもいいかと考えたが、やっぱり違うかなと思い麻琴の腰を突っつくと意図を察してくれて、私からずれてソファーの上に座る。自由になった私も体を起こしソファーの上に座ると麻琴と向き合う。

 鼻先が触れそうなくらい近い麻琴の顔に顔が熱くなってしまうが、恥ずかしさから逃げないように目を逸らさず合わせ続ける。


「麻琴、私はあなたに会ったとき時に言われた言葉がずっと心の中にあって、その言葉があったからこうして生きてる。

 それは大袈裟なことじゃなくて私にとって心の支えだった。そしてね、あなたに会えて私の中にある気持ちが確信に変わったの」


 じっと私を見つめる麻琴視線に今の私なら逸らさずに言える。そう思えるのは自分でも驚くほど落ち着いていて、冷静だからかもしれない。


「私はあなたのことが好き」


 自信を持って言えた私の言葉に麻琴の大きな目が更に大きく開かれる。

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