8.瞳に映るもの

「お、男の子って、男?」


 何を言っているのか自分でも分からない質問に、麻琴は私の唇を指で押さえて首を横に降る。


「違うよ弥生ちゃん。お・と・こ・の! ここ大事なとこだよ」


 なんのこだわりか分からないし、そもそも『こ』がどんな漢字かも分からない私は、混乱する頭の中を必死に押さえようとする。だが、そんな私の手を取って麻琴は真剣な表情で言い直しながら自分の服の中に手を招き入れる。


 人の体に直接触れたことのない、まして手足でなくお腹や胸など以ての外。麻琴の体温は私の手を伝わっていくうちに熱を増し、毛先まで通り抜けていく。


 胸元にあるブラの下に招き入れられたとき、喉を鳴らして唾を飲みこんでしまう。大きい小さいは個人差があるだろうが、滑らかな肌触りとは対照的に骨ばったというか筋肉質な胸元に私の思考は再び混乱に陥る。


「ね? 女の子ではないでしょ?」


「えっ、あ、いや……」


「あっ! 下の方を触った方が分る?」


「い、いやいやいやいやっ!」


 相手が男の子だろうが女の子だろうが、普通に下半身を触ることはおかしいだろうと変なところで冷静になってしまう私だが、麻琴は自分の胸に当ててある私の手を握ったまま、顔同士が触れる距離まで近付いてきて、冷静の上に混乱を上書きしてくる。


「麻琴は弥生ちゃんに触られたいなぁ。麻琴も弥生ちゃんに触れたいし」


「いやいや、それは、お、おかしいでしょ!」


「ううん、おかしくないよ。気になった人に触れたい、触れられたいと思うのは普通のことだと思うの」


「いや、だって触りたいって麻琴は男の子で……あれ? 男なら? ん?」


 目の前で微笑む、私なんかよりも数倍可愛い女の子が自分のことを男の子だと言い、私と触れあいたいと言ってくる。何が何だか分からなくなった私を更に混乱に至らしめようと、麻琴が私の膝をゆっくりとさすりながら私の面前に迫る。


「ね? キスしよっ」


「はあああっつ!? な、なんで! なんでそうなる!?」


「弥生ちゃんのこともっと知りたいし、麻琴のこと知って欲しいから」


「じゅ、順序とか、ほらっ! 普通色々段階がっ!?」


 キスをしようと迫ってくる麻琴の唇はもう触れる寸前で、混乱極まる私が必死に言い訳を並べるが、麻琴はゆっくりと首を振る。


「順序とか段階だとかは決まってないよ」


「い、いや。ほらっえっと、私たち女同士、あ、いや。麻琴は男の子で……」


「男とか女とかも関係ないよ」


 麻琴は私の言い訳を全て否定しながら唇を近付けてくる。


「弥生ちゃんに麻琴を受け入れてほしくて、麻琴も弥生ちゃんを受け入れたいの」


 私だけを映す麻琴の瞳を見て、初めて私を見てくれる人に出会えたとそう思ったときには、唇に触れた柔らかい感触を感じ麻琴の重さを感じながらゆっくりとベッドに倒れ込む。

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