2.麻宏(ファーストアタック)⇒久間

 数学の授業も終わり、休憩時間になるとすぐに久間秀治ひさましゅうじのもとへと赴き、机の前に立つ。


「何書いてんの?」


 授業が終わっても尚、一生懸命にノートに書き続ける久間に話し掛ける。授業が終わったのも気が付いてないんじゃないか、というくらい集中している。

 仕方ないので、無防備に俺の方を向いているつむじを突っつく。


「うわああぁ!」


 久間はリアクション芸人かよと突っ込みたくなるぐらい驚いて、椅子を引いてひっくり返りそうになる。


「な、なんだ……飯田くんか。何か用って、ええ!?」


 久間が思いっきり後ろに下がってくれたおかげで、ノートに何を書いていたのかがよく分かった。必死にノートに書いたもの、正確にはものを見る。


 それは、花蓮麻琴かれんまこのデフォルメされた絵。


 久間はノートを俺から奪い返したいけど、その勇気がないのかオロオロするばかりだ。


 ──そんな姿を見せられると。


 ノートを閉じ久間に返すと、なぜか「ありがとう」と言って受け取る。


 ──キョトンとした顔がなかなか……。


「絵上手いんだな。すごく可愛く描けてる」


 俺の口から出た言葉が意外だったのか、目をまん丸にして見つめてくる。


「え、あ、ありがとう」


 視線を下にして、絵を見られたのが恥ずかしかったのか少し顔を赤くしてモジモジしている。


「それ、花蓮麻琴だろ」


「飯田君知ってるの!?」


「まあな。結構有名だし、ネットニュースにもときどき上がってくるから知ってる」


 モジモジから一転テンション高く食い付いてくる。「そうそう!」と言って、麻琴のことについて熱く語るので、相づちを打ちながら聞く。


 自分のことなんで生の声は大いに興味がある。


「それにしてもその絵、上手いよな。本人に送ったら喜ぶんじゃないか?」


「え、えっと……じ、実はファンアートってことで送ったことあるんだけど、反応があってさ」


「へぇ~、なんて?」


 ある程度話が一段落したところで、絵について触れると可愛く照れてモジモジし始める。


「と、とても嬉しいって『まこ☆トーク』って動画で僕の絵が取り上げられてね。ありがとうって名前を、あっハンドルネームだけど呼んでくれてさ、へへっ」


「それはすごいな。本人も嬉しかったんだろう。わざわざ動画で取り上げるくらいだし」


 まあ、本当に嬉しかったからだからなんだけどな。本人である俺が言うのだから間違いない。


 にしても、あのファンアートを送ってきた本人がこんなにもすぐ近くにいたとはな。


 照れる久間を見ながら、この出会いに感謝するのだった。

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