3.麻琴(アタック)⇒久間

 ──数日後の土曜日


 久間は友達とゲームセンターで遊んだ帰り道、袋いっぱいに詰めた戦利品を持って意気揚々と歩いていた。


 アニメのオープニングテーマを鼻歌で奏でる。充実した休日に満足し、軽かった足どりは不意に止まってしまう。


 夕焼けをバックにして、太陽の光を背負ってなおその美しさを輝かせる少女が一人、久間の前に立つ。


 黒を基調としたゴスロリの少女は、淡く艶のあるブラウンの長い髪を胸元に垂らし、あでやかな唇を見せつけるように開くと久間に言葉を投げ掛ける。


「こんにちは」


 久間の足が震える。女子とは縁がなく慣れていない久間とはいえ、目の前に立つ少女に他の誰よりも色気を感じてしまうのは、単に憧れの人だからだけではない。


 爪先に至るまで妖艶に振る舞う所作は、久間の心を捕らえて離さない。


「え、な、なんで麻琴ちゃんがこ、ここに!? え、うそ、本物?」


 上擦った声で投げ掛ける質問に、優しく包み込むように微笑み、久間に更に近づく。鼻をくすぐる妖艶な薫りに思考を奪われそうになる。


「ええ、ほんものよ。触ってみる?」


 くすくすと笑いながら手を差し出してくる麻琴に、久間はゴクリと音を立てて唾を飲み込み手を出しかけるが、慌てて手を引っ込めてしまう。


 麻琴はそんな久間を見て微笑みながら離れる。


「優しいんだ。ますます気に入っちゃったな」


 いたずらっぽい笑みを見せる麻琴に、心臓が跳ねる久間の手に柔らかい手が重なる。一度離れた麻琴がいつの間に久間の手を両手で握っていた。


「あなたの都合のいい日、ダイレクトメッセージで送って」


「えっ? ゲホッ、ゴホッ」


 久間は突然の出来事に思考も体もついていかず、声が裏返りむせてしまう。


「連絡、待ってるから」


 それだけ言うと、長い髪をなびかせながら麻琴は久間のもとを去って行く。正直何が起きたのか全く分からない。ただ小さくなっていく後ろ姿を見送るだけしかできなかった。


 ただ、今だ手にある温もりは本物で、その温もりを逃さまいと手を強く握りしめる。

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