5.想いはあっても
「自分の友だちがいいように使われてる。それを見てどうにかしなきゃと思って、行動をした大多和は間違ってないし、凄いと俺は思う」
大多和はまばたきもせずに、俺を見つめ話を聞いている。
「だけどな、ちょっとだけでもいから、相田の話も聞いてから、お前の気持ちを伝えてやるといいんじゃないかなと思うけどな。
あっちにも断りにくい理由があるかもしれないし、自分でもいけないとは思ってたかもしれないしな。それを聞いてからでも、大多和の言いたいことは伝えれるだろ?」
小さな声で「あ……」っと言って、目を大きく見開き唇をきゅっと結ぶと俯いてしまう。
「さっきも言ったけど、大多和は凄いと思う。普通は見て見ぬふりか、避けていくか、そのまま流されていくかを選択する人の方が多い。友人のために真っ向から向かう選択をして、それを実行できるのは誇っていいと思うけどな」
俺はベンチから立ち上がり大多和の方に振り返る。
「色々考えることはあるだろうけど、今日のところは帰ろうぜ。暗くならないうちに帰らないとな」
上を向いて俺を見た大多和が小さく頷く。
朝の勢いが嘘のような今の大人しい姿は、大多和がそれほど悩んでいるということなのだろうか。
もっと声を掛けてやりたいところだが、麻宏であるときに長い時間人と話すことがあまりないので、会話は苦手だったりする。相談とかは素が出そうで尚更苦手だ。
麻琴であるときの方が自分の言葉を伝え易いのは、本質はそっちにあるということだということかもしれない。
それに男の姿であり、日頃接点もない俺に深い相談をするのも難しいことかもしれない。
──麻琴であればもう少し深くアドバイスできるかもしれないなぁ。
そんなことを、後ろをついてくる大多和の気配を感じながら思うのだった。
* * *
想いは胸にあっても、それを完全な形で出し伝えるのは難しいことだと思う。
まして昨日の今日で人が大きく変わることは難しく、本人の意気込みはあっても伝える術を得ることなど、そうそうに出来ることではないだろう。
第一声に、
「菜々子! 話がしたいの」
相田の進行方向を遮り声をかけるが、無視されて呆然と立ち尽くす大多和の背中を見てそう思うのだった。
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