体の傷は心まで抉り

1.見せられないもの、見せたいもの

 人は誰しも大なり小なり秘密があるはず。


 秘密を知られたくないけど、知って欲しいそんなジレンマを抱えてしまうのは私が好きだから。


「好きです」


 なんて言ったらどんな顔をするのだろうか? 想像もつかなすぎて笑いが込み上げる。


 いつも同じ時間、見慣れた背中を私は勢いよく叩く。


 本当は長い時間触れていたいけど、そんなことをしたら心臓が張り裂ける自信があるから叩くのだ。


 勇気を持って頭にも触れる、もといい叩く。


 しなやかで綺麗な髪は短いけど触り心地がいい。私の補正もあるかもしれないけど。伸ばしたらきっと綺麗だろうな、もったいないなと思いながら髪に触れる。


「今日も眠そうな顔してるじゃん!」


「痛えなぁ……墨刺すみさしお前さぁ、もう少し優しいスキンシップは出来ないのかよ?」


 彼は眠そうな表情で頭を押さえつつ私に抗議してくる。瞼を下ろし半目で見てくる彼、もっと目を開けば綺麗な瞳がよく見えて可愛らしいだろうに残念だ。


 彼の名前は麻宏まひろ、同じ高校の同級生でクラスメイトなわけだ。


「今どき暴力的ヒロインは流行らないと思うがな」


「なになに? 私をヒロインって認めてるわけ? 照れちゃうじゃん!」


 照れちゃうじゃんの部分は本音だが、背中をバシバシ叩いてうまく誤魔化せたはず。


「暴力のところ無視すんなよな」


 麻宏のボヤキは聞こえない振りをする。


「遅刻するから行くぞ」


 めんどくさそうに言いながらも、隣を空け一緒に行くよう促してくる然り気無さに、きゅんとしながら麻宏の隣に駆け寄り一緒に歩く。


 夏の日差しの残る通学路を歩く道すがら、スレ違った女性は薄着で大胆に肌を出していた。


 肩からスラっと伸びる腕や、ミニのスカートから惜しげもなく出している太ももに、ついつい視線が向いてしまう。


 一瞬目を奪われすぐにハッと我に返ると、慌てて隣を歩く麻宏を見る。麻宏も私と同じく視線が女性に向いていた。


「ちょっと、見すぎだって」


「ん? ああ、確かに」


 否定せず認めるのは潔いいけど、それはそれでモヤる。


「やっぱ興味あるわけ?」


「そうだな」


 恐る恐る探りを入れた私に対し麻宏は肯定で即答してくる。あまりにも即答だったので私の方がどぎまぎしてしまう。


「今年のトレンドじゃない服だが、綺麗に着こなしてるなって。自分に似合う服が分る人って凄いよな」


「ん? あんたファッションとか興味があったわけ?」


「まあ、人並みにはな」


「人並みねぇ~。その割にはいつも以上に喋る気がするけど」


「そうか? いやまあそうなのかもな」


 いつもの気だるい感じが僅かに薄れ、心なしか目も大きく開き熱のこもった言葉で語る姿は新鮮で、私の心を心地好く撫でてくる。


 ファッションに興味があると言うことが確認できた喜びに浸れたのも一瞬で、先ほどの女の人の露出の高い姿を思い出し不安が心の中に広がる。


「あのさ、やっぱり肌を出したりしてた方がさ……その何て言うかさ、良いわけ?」


「あ? 肌を出すのが良いとか言うわけではないだろ。それぞれが好きな格好してれば良いと思うけどな。トレンドを追うのは楽しいけど、自分に似合う服を求めるのもまた楽しいと思うけどな」


 いつもよりテンション高めにそう言う麻宏を見て、純粋にファッションとかが好きなんだなと感じる。


 それと同時に会話の内容から読み取れる、多種多様性を受け止めてくれそうな言葉に私は安堵のため息を一つつくのだった。


 ──やっぱり大事、たしゅたようせいってヤツはね。

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