12.未来を夢見て
今日の彼女は市長となり、町を発展させながら市民と他愛な会話をしたり悩みを解決したりしている。
もちろんこれはゲームの話である。
画面の向こうの彼女は、時間毎に入れ替わるリスナーと一緒に町を発展させるための話し合いをしながら協力して町を広げて行く。
時間毎にパートナーたちが変わるので、発展する方向がバラバラになって町がおかしな方向へ発展する。
そのやり取りを楽しみながら、リスナーの近況を聞いて簡単な相談を聞いている。
他のことをしながら然り気無く近況を聞いたり、悩みを聞いたりする配信方法は、心を許してしまうのか他の作業に集中して気が緩むのかは分からないが、ポロリと「実は……」的な吉報や悩みを引き出される。それをこぼすことなくすくいあげると会話を繋げていく。
今回はゲームをしながらの配信で、これを『麻琴と
あの日俺が触れた彼女は、今は画面の向こうにいて触れることは出来ない。
それでも彼女に誉められ、励まされた記憶は心に刻まれていて今を生きる原動力になっているのは間違いないと思う。
妻と別れることも考えたが 子供たちの養育費を払うことを決めた俺は別居の形を取った。
家族に冷たくされたことは許しがたいが、妻が冷たくなった日の記憶を手繰れば、共働きでありながら子育てや家事を全て丸投げしていた俺自身にも問題はあると結論付けた。
お金だけ入れ子育てや家事を任せること変わらないが、俺が目に入らないこと、俺も家族と関わらないことで家族とではなく、各個人の人生が円滑に回るならこの選択もありではないかと考えた。
再び画面に目をやるとゲームをしながら会話をしている姿が目に入る。それと同時にあの日の夜のことが脳裏に蘇る。
あの日の別れ際「俺は変われるだろうか?」と尋ねる俺に麻琴は僅かに微笑み一瞬目を瞑った後に、真っすぐ視線を向けてくる。
「悠真さんはもう変わってますよ。初めに会ったときと表情とか全然違いますもの」
掛けれた言葉もだが、一歩踏み出し顔を近付けられたことの方が恥ずかしくて顔を逸らしながら、自分の頬に触れ何か変わったところがないか確かめる。正直何が変わったか分からないし実感も出来なかったが、麻琴が断言してくれたこともあり何かが変わったのだろうと思えた。
「ありがとう」
気が付けば口から出た言葉に、麻琴は一歩後ろに下がりながら満面の笑みを見せる。
「どういたしまして」
素直に感謝し言葉を表に出せる。そんな当たり前が嬉しくて思わず口元が緩んだ。
画面を見つめたままなんとなく自分の口元を触れると、口角が僅かに上がっていて柔らかい感触が返ってくる。
──ありがとう
心の中から画面に映る麻琴へ向かってお礼を述べると仕事へと向かう為、画面を消し玄関へと向かう。
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