4.先制攻撃は霞にまかれて

 指定した場所は、ショッピングモールの中にテナントとしてある全国区のファミレス。お昼を過ぎても多くの人で賑わっている。人がいた方が安心できると考えてこの場所を指定したわけだから、賑わっている現状はありがたい。


 花蓮麻琴から来たメールに返信した後、直ぐに返信は来なくてスパム的なメールに送ってしまったかと不安になってしまい、朝になって返信が来たのを確認したときに安心してしまった自分が嫌になる。

 そこも含めて、花蓮麻琴からもてあそばれている気がして腹が立つ。


『──あなたのコメント凄く気になっちゃって一度お話してみたいなぁって思うんだけどダメかな? お返事待ってます』


 メールの内容を見て、花蓮麻琴が何を考えているのか全く分からなくなる。

 だがそれと同時に直接会って、ムカつく女を泣くまで罵ってやりたいという気持ちが芽生える。


 私が指定したファミレスで待ち合わせをしているわけだが、私は花蓮麻琴の顔を知っているので見つけるのは簡単だ。こういうのは先に主導権を握った方が有利に会話を進めることができる。


「こんにちは、弥生やよいちゃんで合ってるよね?」


 背中から突然掛けられた声に驚き、声が出そうになるが必死で飲みこむ。恐る恐る振り返るとつい先日画面越しに見たそのまま、いや実物は画面でみるよりも可愛く感じる。


 大きく綺麗な瞳に見つめられると思わず息を吞んでしまうのは、花蓮麻琴が可愛いからなのか、全てを見透かされているように感じてしまうからなのか。


 驚いている私を見て、花蓮麻琴はくすくす笑う。


「まずは座ってお話しようよ。やっと会えたんだからここで立ち話するのはもったいないよ」


 そう言って私の手を取り店内に入ると、ファミレスの店員よりも愛想を振りまき席へ案内してもらう。席に座ってお礼を言われ嬉しそうに帰って行く店員の姿を見て、目の前の相手が少し怖くなる。


「弥生ちゃんはお昼食べる?」


「……いらない」


「そっか。じゃあ麻琴は頼んじゃうね。弥生ちゃんも好きなの頼んでよ、麻琴が誘ったんだからここはごちそうしちゃうっ!」


 お腹が空いてますアピールなのか、お腹を押さえて可愛く笑う姿にあざとらしさを感じ皮肉をたっぷり込めた言葉を投げる。


「ふ~ん、貢いでもらったお金でおごってくれるんだ?」


 メニュー表を見ていた目を私に向けてじっと見てくる花蓮麻琴に、一矢報いたと満足感を得る。


「そうだよ。麻琴が使うお金は、みんなからもらったもの。大切に使わないといけないから弥生ちゃんに使うの」


「なによそれっ!」


「し~っ。弥生ちゃん、声を大きくしなくてもちゃんと聞こえてるよ。どうしても麻琴に伝えたいことがあるならもっと近付いてお話しようよ。近付いて小さな声でお話した方が特別感があって楽しくない? これって麻琴だけかな?」


 人差し指を縦に唇を押え、ウインクしながら微笑む花蓮麻琴に言われ言葉に詰まる。テーブルに身を乗り出しそのままぐいと顔を近付けられ、何を言われるのかと思わずごくりと生唾を飲みこんでしまう。


「それでね、注文だけど、麻琴はピザとね……あ、このポテトカリカリしてて美味しいから一緒に食べようよ。後これに……弥生ちゃんは飲み物はなんにする? クリームソーダとかどう? それともドリンクバーの方がいいかな?」


 メニューを指差しながら楽しそうに話し掛ける花蓮麻琴の予想外の言葉に、身構えた体の強張りを解くタイミングを見失ってしまう。

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