お姉さんと……
1.恋なのかも分からないまま振られる。そんな経験。
恋をしていたのか知る前に振られる。
そんな経験をした。
いや、正確には別に好きだったわけでなく、何となく気になっていただけ……だと思う。
──剛ってさ、
──まじで、本当に?
──あいつさ、いっつも真紀に絡むし、チラチラ見てるし。絶対気があるって!
──えーまじで~、私さあいつのことなんとも思ってないんだよね。だってあいつさ、見た目も性格も子供っぽいし。私の好みじゃないんだよねぇ~。
──あ~分かる分かるっ! ちょっかい出す時点でガキだもんね。
頭に響く声。
たまたま通りがかった教室の中から聞こえてきた声の主のことを思い出すと、胸が痛くなるのはやはり好きだったからだろうか。
いや、誰からであれ『好みでない』と言われたらそれなりに傷付く。
だから恋をしていたわけではないから、これは失恋ではないと、誰に向かってか分からないが虚勢を張る。
ふと横を見るとガラスに映る自分の姿がある。両手を広げて見つめてみる。
子供っぽい。
そう自分でも思う。中学二年にしては低い身長と幼い顔立ち。
小学生にだって間違われることのある自分の姿を見て大きくため息をつく。
──身も心も子供っぽい。
まるで体の成長が遅い自分のことを知られているようで、心がきゅっと締め付けられる。
何度目のため息かを付きながら歩くと頭に雨粒が落ちてきて弾ける。
次から次へと落ちてくる雨粒は剛容赦なく降り注ぐ。
朝学校に行くときに母親から傘を持っていくように言われたのに、何に対しての反抗か知らないが、わざと持っていかなかった自分に腹が立つ。
こうだから自分はガキなんだと。半場ヤケクソ気味に雨の中を走り、小さな商店の軒下へと駆け込む。
濡れた制服が体に張り付いて気持ち悪い。
運の悪いときはとことん悪いものだと天を恨めしそうに睨むが、よく考えれば今の状況は自業自得であることを思い出し、モヤモヤした気分になり落ち込んでしまう。
早く家に帰ろうとポケットに手を入れる。本来なら触れるはずのキーケースの感触はなく、濡れたポケットが手に引っ付くだけだった。
「うそだろ、落としたのか……やばいな」
どこまでポケットの中にあったのか記憶をたどりながら、ここまで来た道を見つめる。
雨雲で遮られいつもより早く暗くなった道は不気味さを増し、落としたかもしれないカギなど見つからないぞと、そう訴えかかてくるように見える。
今の時間は家には誰もいないし、なによりカギをなくしたことが両親に知れたら怒られる。
とりあえず来た道を戻りながら探そうと思ったとき、ふいに軒下に振り込んで剛に当たっていた雨が止む。
「ずぶ濡れ。風邪引いちゃうよ」
傘を差した女性が心配そうな表情で剛を見て自分よりも年上であろう女性は優しく話し掛けてくる。
そう、これが僕とお姉さんの出会い。
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