2.雨の中で感じる温もりに引かれて

「えっと……」


「ん? どうかした?」


 雨が降るなか一緒に失くしたカギを探してくれるお姉さんに、お礼を言おうとするがうまく言葉にできなくて口ごもってしまう。


 傘がない自分が濡れないようにと入れてくれただけでなく、一緒にカギまで探してくれると言って学校へ向かって歩いている最中。下校時間を過ぎていて同じ学校の生徒は少ないが、年上のお姉さんと歩く姿は目立つのだろう。すれ違う度に凝視される。


 その視線が恥ずかしくもあるが、なんとなく優越感もある。


「この辺りを歩いたんだよね。じゃあ道沿いを辿れば見つけれると思うけどなかなか見つからないね」


 二人で下を向いて歩いていたらお姉さんの肩に当たってしまう。


「ごめん、大丈夫?」


「え、あ、うん大丈夫……です」


「下ばかり見てたらぶつかっちゃうね。 あっ! あっちを探してみようよ。雨が降りだしてから学校から走って来たとして、あそこで雨宿りとかしてない?」


 お姉さんが指差すのは自動販売機が並んだ場所。


 濡れないようにビニール張りの簡易的な屋根のあるその場所を見て記憶がフラッシュバックする。


「そう言えばあそこで雨宿りして……」


「ジュースを買おうとしたとか?」


 剛は何か思いだしたのか大きく開いた目で自動販売機を見つめ、瞳に過去の自分の姿を映す。そして大きく頷く。


 お姉さんは剛の手を握ると自動販売機の方へ引っ張る。


 その手は雨で濡れていて、濡れた感触と雨の冷たさと体温の混ざった温もりに何かいけないことをしている。そんな気持ちになる。


「これっ! キーケースが落ちてるけど違う?」


 お姉さんが拾ったキーケースを僕の前に差し出す。


「あっ、はいこれです。ありがとうございます」


「見つかって良かったぁ」


 雨のなかでも眩しい笑顔を見せるお姉さんの手からキーケースを、受け取ろうと手を伸ばす。


 渡されたとき触れた指先に心臓が跳ね、右肩が濡れ透けたシャツから見える紺色のブラ紐に視線が釘付けになりそうになって、慌てて下を向いてお礼を言いう。


 一瞬だが凝視したのがバレていないか、ドキドキしながらお姉さんを見ると、笑顔を崩さず自分を見ていてくれてることに安堵する。


「ちゃんと持ってないと落とすよ」


 そう言いながら僕の手を握り、手のひらに置いていたキーケースごと包む。


 柔らかい肌と、濡れた感触に伝わる体温を感じ、心臓が飛び跳ねそうになる。


「びしょびしょだね。このままだと風邪引いちゃうし、体拭いた方がいいよ。麻琴の家近いからおいで」


 クスッと笑ってお姉さんは僕の手を引く。


 その笑みに抗うことなど出来ず、僕は手を引かれ流れに身を委ねる。

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