3.お姉さんと
お姉さんと手を繋いだまま手を引かれ、マンションの廊下を歩きある一室の玄関に招かれると、僕は玄関の土間に残される。
「はいっ、タオル使って」
すぐに戻ってきたお姉さんが手渡してくれたタオルで頭と顔を拭く。顔を拭いたときタオルの香りに胸の鼓動が速くなってしまう。
「頭がまだ濡れてるよ」
お姉さんの声でタオルに顔を埋めていたことに気付き慌ててタオルを頭の上にのせると、お姉さんが手を伸ばしてきて僕の頭を拭き始める。
「ほら、動かないで」
ちょとだけ力を入れて頭を拭いてくるお姉さんとの距離が近くて、ギリギリで触れそうな胸元に心臓があり得ないくらい速く動く。
手を動かす度にお姉さんから甘い香りがして、それが鼻をくすぐる度に頭がくらくらする。
「寒い? 顔が赤いよ」
そう言いながらお姉さんが剛の額に手を置き体温を確かめた後、雨で濡れたカッターシャツの襟元に触れる。
息が掛かるほどの距離に、自分でも顔が赤いのが分かるほど、顔が熱くなる。
「お風呂入ろっか」
「えっ?」
声を出した本人がどこから出したか分からないほどの変な声が出て、僕自身が驚いてしまう。
「服も洗って乾かした方がいいね。そうと決まれば行こうっか。おいで」
お姉さんに引っ張られ強引に脱衣所へと連れて行かれる。
……と言うと語弊があるかも。
心のどこかで何かを期待していた僕がいたのも事実だと思う。
力任せに抵抗して逃げ出そうと思えば逃げれたはずだし。
現に今、お姉さんに脱がされそうになって抵抗しているのは嫌だからでなく、恥ずかしさの方が強い。
身長も低く見た目が幼いと言われる、この度、同級生の女子たちから性格も幼いと言われた僕だが、実は身体的にも幼い……。どこがとは言わないが、お姉さんの前で醜態を晒したくないという僕なりの意地の抵抗なのだ。
「恥ずかしがってたら風邪引いちゃうよ」
「じ、自分で出来るからっ! だい、大丈夫です。お姉さんはあっちに行っててください!」
「え~っ! 麻琴も一緒に入ろうと思ったのにっ」
お姉さんの突然の発言に、頭が吹き飛んでしまいそうなほどの衝撃を受ける。
「は、はは、入るって! なんで?」
「だって麻琴も雨で濡れたし。剛くんを待ってたら麻琴が風邪引いちゃうもん」
「いや、な、なら。お姉さんが先にどうぞっ! 僕が後で入りますから」
全力で拒否をする。本当はちょっぴり期待が無いわけではないが……。
「ん? もしかして麻琴と入るのが恥ずかしい? 大丈夫! 麻琴は男の娘だから」
「はいっ!?」
本日二度目の衝撃が僕の吹き飛んだはずの頭に追い打ちを喰らわせ、僕の思考は完全に止まってしまう。
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