8.方程式を解くための一手

麻琴=麻宏=初恋のあの子


 この図式を導きだした私は証明すべく、自信満々でここへとやって来たわけだが、目の前にいる子はどこからどう見ても女の子のしか見えない。

 初恋のあの子が言っていた「多種多様性」から導いた私の証明問題の挑戦は音を立て崩れ落ちていく。


 麻琴に手を握られ接近した顔に、真っ赤になっているであろう私の頭に痛みにも似た閃きが走る。


 ──そうだ! 見た目では分からなくとも中身は簡単には変えられないはず。日頃男として生活している麻宏であるならば、手術とかはしてないはず……だよね?


 一か八かの賭けだけども、起死回生の一手を私は打つべく、麻琴に握られていた手から離れると、テーブルに手を付き前のめりになって麻琴を指差す。


「麻琴、体触っていい?」


 私の言葉を受けて元から大きな目を更に大きくした麻琴がお腹を押さえて笑い出す。一か八かの賭けだとしても麻琴を追い込めるかもと思っていた私からしたら、想像にしなかった反応にどうしていいか分からなくなってしまう。


「ふふっ、ふぅ~。ごめんっ! ちょっと予想外だったからっ、ちょっと、久しぶりにこんなに笑ったっ、ふふっ」


 まだ可笑しいのか肩を震わせながら目に溜まった涙を拭う麻琴の視線に、熱い頬が更に熱を持つのを感じる。


「結構大胆なこと言うんだ。それにその指、どこかの探偵が犯人を追い詰めたときの決めポーズみたいなのも、ふふっ、飾切って面白い子だね」


 まだ前のめりになっている私の鼻先を突っつくと、その指で私の右胸を差す。


「触っても良いよ。でもここじゃだめ」


 色っぽく笑う麻琴に私の心臓が激しく動き出す。


「飾切のことも含めて2人っきりで確かめ合いたいな。だめかな?」


 上目遣いで甘えるようにおねだりする麻琴が、頬に触れた手が冷たく感じるほど、私の頬が熱を持っていることなど気付きもしない私は、なぜのぼせているのか分からないままくらくらする視界で麻琴を必死に視界にとどめる。


『2人っきり確かめ合う』


 それが何を意味するか、いくとこまでいくかは別として私の胸にある晒すということ。見てもらって再び「綺麗だね」って言ってもらいたいけど、そもそもこの子が初恋のあの子かも決定してないし、麻宏であるかも分からないのにそれはいいのか? 


 熱っぽい思考の中で冷静であろうと必死に叫ぶ矛盾の行動で自我を保つ。


「それじゃあ、近くに休憩する場所があるから……」


「待って、確かめ合うのは構わないけど場所選ばせて」


 くらくらする頭の中で一瞬でも冷静な思考に我を取り戻せたのはナイス私と言ったところだ。


「麻琴、その、あの……あなたの家がいい」


 麻琴の言葉を遮って、今私が考えれる精一杯の提案をする。


「ふ~ん、やっぱり面白い子……」


 一瞬だけ驚いた表情を見せ興味深そうに私を見る麻琴に、私の一手は求める答えにたどり着くための一手だったと確信を持つのだった。

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