7.もう一度
いつもの学校でいつもの授業。行間の間に次の授業の準備を終えぼんやりと考える。
あの日お姉さんと出会ったときのことは鮮明に覚えているつもりなのに、思い出そうとするとどこか不鮮明で夢のようなふわふわした感覚に陥る。
ミーチューバーだと言っていたから検索したら簡単に見つかった。生計は立てられないと言っていたからあまり人気ないのかなと失礼なことを思っていたら、ビックリするくらい登録者数がいてコメントも沢山あった。
コスプレをしたり視聴者と楽しそうに会話をするお姉さんは、雨の日に出会った人と同じ姿をしているけど、あのときに見せた表情と声ではなく本当に同一人物なのか確信が持てなくなる。
──もう一度会えば知れるかも……会ってもっと知りたい……
と、そう思ってしまう僕自身に驚く。
今まで気になる人はいても、もっと知りたいと本気で思うことはなかった。
これが……
「
考えをまとめている途中で突然声を掛けられたので、顔を上げるとクラスメイトの
「次の数学の宿題の答えなんだけど、これで合ってるかな?」
浅野さんが僕の机に宿題のノートを広げる。広げながら両手を机に着けて僕の方へ体を傾ける。
なんだかやけに近いなと思い見上げると、浅野のさんの胸が近くにあり、顔には少しぎこちない笑みを浮かべている。
さらに視線を感じ、目を横にやると離れた場所にいる二、三人の女子がこっちを見てクスクス笑っていた。
これは僕の反応を見て面白がってるんだなと、そう考えると今の浅野さんの行動にも納得できる。
心の中でため息をつきつつノートに目を落とすと、数字の羅列を目で追う。
「合ってるよ」
そう言いながらノートを閉じて押し返す。
「えっ、あ、うん、良かった。ありがと」
浅野さんは驚いた表情を見せつつ、ノートを手にすると小走りで友だちのもとへ帰って行く。
浅野さんの背中を最後まで見送ることもなく僕は、さっきの続きへと思考を戻す。
頭に浮かぶのはお姉さんのことばかり。これは恋なのか、それとも肌を触れ合ったことによる一時的な感情なのか。いくら考えても分からない。
──お互い道に迷ってたから出会えたのかもね。
ふとお姉さんの最後の言葉が過る。
お姉さんも迷ってたんだ。だったら未だ迷っている僕は再び会えるかも知れない。会って話して、お姉さんのことを知ってみたい。そうすれば僕のことも知れるかもしれない。
でも今度は偶然ではなく必然にしたい。
ならやることは決まっている。
僕が今からやるべきことを決めたとき、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。
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