5.ちょっと分かちゃったかも

「え? な、なれるんですか? 私でも……」


 ミーチューバーになりたいと言う恭美に「なれる」と断言したら、驚いた表情で私を見てくる。

 そして目にある光は、おそらく希望の光。


「アカウント作って、動画撮って投稿すれば誰でもミーチューバーでしょ」


 そう答えると、さっきまであった希望の瞳の光は消え、くすんだ色で私を見てくる。凄く分かりやすく落胆する。


「参入する敷居は低いんだから、それこそだれでもなれるんだよ。入ってから大変なの」


 恭美は再び目線を下に落としてしまう。


「恭美はどんなミーチューバーになりたいの? ジャンルって沢山あるじゃない?」


「え、えっと、その。麻琴さんと同じ……とか」


「麻琴と同じってことは、麻琴たちはライバルなわけだ」


「え、いえ、そんな。麻琴さんと私がライバルだなんて!? ただちょっと」


 ちょっといじわるに笑いながら言うと、首を必死に振って否定する。

 慌てる姿に可愛らしさを感じ、もうちょっとだけいじわるをしてみる。


「さっきも言ったけど入るのは簡単。でもそこから多くの人に見てもらって人気者になろうだとか、ちやほやされたいだとかされるのって一握りだよ」


 しょんぼりする恭美の手をそっと握ると、メガネの奥の目を丸くして私を見つめる。


「恭美は具体的に何がしたいの? 誰に向けて配信するの? 何も考えずに配信したって誰も見てくれないよ」


 矢次に言葉を投げかけたら、更に下を向いて黙ってしまう。


 恭美の唇にそっと触れると、触れた人差し指に少し力を入れ唇を押し上げる。


 私に押され顔を上げる形になる恭美と目が合う。


「恭美ってあんまり相手のこと見てくれないよね。麻琴は恭美のことを見たいから、恭美も麻琴のことを見て欲しいなぁ。だめ?」


 恭美は顔を真っ赤にしてふぃっと横を向いてしまう。


「もうっ、配信したらみんなに見られるのに、麻琴に見られただけで顔背けちゃダメだと思うんだけどぉ」


 頬を膨らませ抗議すると、手をパタパタと振りながら必死で謝ってくる。そんな恭美が可愛くて顎を持つと上げて私の方を向かせる。


 頬を朱に染め目をぱちぱちとさせ私を見てくるその表情にゾクゾクしてしまう。


「不特定多数の人間に見られる、みんな優しい人ばっかりじゃないよ。それこそ悪意を持った人もいるし、誹謗中傷も受ける。そんなのを跳ねのけて続ける自信が恭美にはある?」


 黙ったままの恭美に顔を近付けると、頬は朱から紅色に変わる。


「ねえ、恭美って動画を配信して、ミーチューバーになりたいわけじゃないでしょ?」


 私の言葉にメガネの奥にある目を大きく見開く。


「恭美は誰でもいいから見て欲しい。自分という存在を知って欲しいんじゃない? 違うかな?」

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