2.お節介だとしても
「待って! 話はまだ終わってない」
「もう分かったから! 反省もしてるし、それでいいでしょ!」
こっちに近づいてくるから、もちろん言い合う声が大きくなってくる。それに伴い2人の姿も見ることができる。
背中まで伸びた黒く長い髪に我の強そうな色を瞳に宿した女の子と、前髪をそろえた少し垂れ目の女の子。
確かに隣のクラスの
2人とも去年同じクラスだったから覚えている。たしか仲が良かったと記憶しているが、今の2人からはそんな雰囲気は感じられない。
2人がこっちに向かって来るが、逃げるタイミングを失ってしまった俺は今、ダメ元で偶然を装うしかないと覚悟する。
だが寸前のところで、大多和が相田の腕を掴み引き留め、階段と廊下の角ギリギリで2人が立ち止まる。
曲がり角一つを隔て俺は、墨刺を押さえ息を殺しつつ、ゆっくり後ろへ下がってこの場を離れようとする。
「最後まで話を聞いて。私は菜々子の為に……」
「もういいの。私は別に困ってないし!」
「よくないっ! あいつら菜々子のこと都合よく利用して」
「なによ! 雪恵が関わるから余計にややこしくなるんじゃない!」
「っつ!!」
逃げようとする俺らには気付かず、ヒートアップする2人。このまま逃げようとする俺だが、2人の間の空気が大きく変わったのを感じ取ってしまう。
糸がプツンと切れたような、ギリギリそこにあったものが崩れる瞬間とでも表現すればいいだろうか。
その感覚に俺は腕にしがみつく墨刺を置いて大きく一歩前に踏み出す。
大きく手を上げた大多和、だがその手を振り下ろすことは出来なかった。
なぜなら、振り下ろされるはずの手は俺が握っているからだ。
自分でもお節介なのは分かっているが、つい飛び出てしまった俺は、2人の間に割り込み大多和の手を掴んでしまったのだ。
俺が飛び出したせいで、廊下には墨刺が転がっているはずだから後で謝っておこう。
もう引っ込みはつかないから、関わるしかない。
「お前らの声、あっちまで声が響いてるぞ」
多分響いてはいないけど、こうなったらハッタリで押し切るしかない。
幸い、言い合って興奮していた2人には冷静な判断ができなかったらしく、俺の言葉にハッとした表情を見せ、興奮していた熱が急激に冷めていくのが表情から見て取れる。
相田の方が先に我に返ったのか、大多和を一睨みしてその場を去って行く。
その姿を見て大多和も我に返り、離れていく相田の背中に言葉を放とうと口を開ける。
「落ち着け、今叫んでも声は届かねえよ」
この言葉でカチンときたのか、大多和が俺を睨むが気にせず尋ねる。
「喧嘩か? お前ら仲良かったと思ってたけど。大声出して言い合いするほどのことがあったのか?」
「飯田くん、あなたには関係ないでしょ!」
「んな大きな声出すな。普通の声で聞こえるって」
「つっ!? あなたは前から人を馬鹿にするような態度と物言いばっかりっ! 私と菜々子と仲がいいように思う? あなたに何が分かるっていうの!」
「あぁ分からねえよ。だから何かあったのか? って聞いてるだろ」
そう答えると大多和が下唇を噛み俺を睨むが、そんなことは構わず話を続ける。
「少なくとも人を叩こうとするのはよくないと思って止めたんだがな。まあ、それが余計なお世話なのは分かってるけどな」
大多和の噛んでいた下唇の力が緩み、肩を大きく落とし深いため息をついて下を向く。
「別に人の関係にどうこう言うつもりもないし、俺は深入りはしないさ。叩かれる人と叩く人、どっちも見なくて済んで俺は満足だしな」
大多和が何かを話す気配も感じないので、俺はそれだけ言って大多和を置いて立ち去る。
「おい、行くぞ。折角、頑張って起きたのに、ここで遅刻とかバカみたいだからな」
俺は、何故かぼんやりと俺を見つめる墨刺を引っ張り教室へと向かう。
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