5.抗いは心の底にはないようだ
「ねえ」
お姉さんはそう言いながら、僕の胸の上で手をゆっくりと動かし撫でる。
痺れるような感覚と共に漏れた声に驚く間も無く、耳を温かくて柔らかい感触が支配する。
生温く甘美な感触と、艶かしく鼓膜に響く音が、お姉さんが僕の耳を咥え、耳を舌で撫でられていたのだと気付き、慌てて首を振って振りほどこうとする。
だが左胸に触れた指と、ゆっくりと体をなぞり下りていくお姉さんの指に僕の体は固まってしまう。
僕の体の上を滑らせるお姉さんの指がヘソの下辺りに来たとき、僕は喉を鳴らし唾を飲みむ。
「剛くんは、どうしたい?」
突然の質問され声も出せずに固まってしまう。
「麻琴はね、剛くんの色々な姿を見てみたいなぁ」
甘い声を出しながらヘソ下をじらすようになぞる。僕はただ息を吞み続けるだけで、どうしていいのか分からず戸惑うばかりだ。
「剛くんの男の子らしいところ、女の子らしいところ全部見せて。
ここには麻琴と剛くんしかいない。全部さらけ出しても良いんだよ。このときは剛くんと麻琴の二人だけしか知らない、二人のひみつ」
そういい終えると僕を背中からぎゅっと抱きしめる。背中に伝わる温もりは、お互いのお湯で濡れた肌と肌の水を介して伝わってくる。
頭の中では後ろにいる人が
抗えない。
いや、違う。
そもそも抗う気はなかったのだ。
ついてきた時点で僕は何かを期待していた。現実が予想と違った展開を見せようとしている今でも、ここからの展開を僕は間違いなく期待している。
お姉さんが触れている僕の胸元や、ヘソ下や耳が焼けそうなほどの熱を持つ。
僕がゆっくり頷くとお姉さんは優しく微笑み唇を重ねてくる。
雨で濡れ冷えた体は煮えるほど熱く、その熱にあてられた頭は何があったかを忘れまいと必死で覚えていようとするけど、それらを掻き消してくる新たな体験は、今が現実なのか夢なのかも曖昧にさせてくる。
ただただ、目の前の出来事に向き合うことで精一杯になって、一瞬のときに深く沈んでいく……。
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