9.人と人を繋ぐ懸け橋になれたら素敵だよね
週末の繁華街の人混みの中、雪恵がきょろきょろと辺りを見回すとその人はすぐに見つかった。
多くの人の中でも一際目立つ存在である花蓮麻琴は、待ち合わせ場所である本屋の前の壁に寄りかかりスマホの画面を見ている。
ただそれだけなのに人目を引いてしまう姿に見惚れてると、視線に気づいた麻琴が雪恵に手を振る。
小さく手を振り返した雪恵が速足で駆け寄ると、麻琴は微笑みながら迎えてくれる。
「早くきたつもりだったんですけど、麻琴さんの方が早かったですね」
「麻琴はちょっと早くきただけ。丁度もう一人も来たみたいだし、みんな同じくらいになっちゃったね」
麻琴の視線を雪恵が追うと、その先には菜々子が立っていた。菜々子は麻琴を見て笑みを浮かべるが、雪恵を見て笑顔を消し困った顔で視線を下に逸らしてしまう。
雪恵もそれに合わせて麻琴に向けていた笑みを消すが、菜々子から目を逸らせず見てしまう。
その視線に気づいた菜々子が目線を上げ、そのまま2人は目を合わせてしまう。
「さ~て、ここに立ってても暑いだけだし、まずはなにか飲もうよ」
麻琴が左手で雪恵の手を取り引っ張って歩くと、菜々子の手を右手で取ってそのまま2人を引っ張っていく。
麻琴に引っ張られて連れられてきたカフェは繁華街から外れた場所にあり、レンガ調の風貌と古めかしいドアが歴史を感じさせる。ドアを開けるとコーヒーの匂いとレトロなテーブルやソファーが迎えてくれる。
「ここは麻琴のお気に入りのカフェなんだけど、ちょっぴりレトロだから若い子が飲むものはあまりないかもしれないなぁ~。あ、マスター個室使いますねっ!」
慣れない雰囲気にきょろきょろする2人に麻琴が話し掛けながら、マスターと呼んだ初老の男性に慣れた様子で尋ねる。
麻琴の問いに丁寧に頷くマスターに手を振りながら、麻琴は店の奥へと2人を連れて行く。
「ここ隠れ家っぽい感じが好きなんだ。内緒話にはもってこいの場所だと思わない? えっとね、雪恵ちゃんはここ。菜々子ちゃんはその隣ね。じゃあまずは注文しよっか、はいどうぞ」
椅子に座り、年期の入ったメニュー表を手渡され、おどおどする2人の目が泳ぐ姿を見て麻琴は笑いながらメニューの内容を説明する。
やがて注文してやってきた紅茶と洋菓子のお茶請けを前にして、手を付けることなく黙ったまま下を向いて、目を合わせようとしない雪恵と菜々子に麻琴が先に口を開く。
「麻琴も16年程度しか生きてないから偉そうなことは言えないけど、雪恵ちゃんと菜々子ちゃんがこのままお互い本音を言い合わずに友達を止めるのは望んでないの。折角友達になった2人だもの、言いたいことを優しい気持ちで語って、それを優しい気持ちで聞いてほしいな。というわけでぇ~」
麻琴が雪恵の鼻先を突っつく。
雪恵は緊張した面持ちになり口をきゅっと結ぶ。
「まずは雪恵ちゃんからいってみよっか」
椅子のひじ掛けに置く手をぎゅっと握りしめ、一度下を向き頷いた雪恵が隣に座る菜々子の方を向く。菜々子も喉を鳴らし雪恵を見つめる。
お互いの瞳にお互いの姿を映し見つめ合い沈黙が続く。
「あのね……」
必死に絞り出した雪恵の声が沈黙を破る。
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