12.蝶は弱く儚くとも
好きだとはっきり言えた。幼い頃は女の子だと思っていたから、同姓が好きになるのはおかしいことなんだと思っていたけど今となってはどうでもいい。
私がずっと思い続けて会いたいと願い続けたのは目の前にいる人なのだから。
その人と出会え今の現状を知っても尚変わらない、寧ろ確信に変わった気持ちは素直に形となって私の口から出すことができた。
早く答えを聞きたいけど、焦ってはいけないと自分に言い聞かせ
麻琴は大きな瞳を下に落とし真剣に考えている、私はただその口から出る言葉を待ち続ける。
やがてゆっくりと私の方を見た麻琴の口から零れた言葉、
「分からない」
一言だった。
一瞬心が芯から冷える感覚が体を走る。だけどすぐに頬に触れた感触が掻き消してくれる。
「飾切のことは好き。でもそれはあなたが言う好きと同じなのかと言われると自信がないと言えばいいのかな?」
ちょっと困ったように、でも優しく微笑む。
「肌を重ねて触れ合ってから好きだと言われたことはあっても、始めからそれもずっと前から好きだって言われたのは初めてだから……ね? 日頃はお悩み相談とかしてるのにいざ自分がその場に立つと迷っちゃうんだから勝手なものよね」
苦笑の混ざった笑みを浮かべため息をつくのは、おそらく麻琴自身に向けたもの。
「返事を聞きたいけど急ぎじゃなくて……なんて言うか時間を置いても大丈夫……いや違うなぁ。もっと知り合ってからでもいいと言うか、うん、私は昔出会った麻琴と今の麻宏しか知らない。だから教えてよ、今日までの麻琴をさ! あっ、もちろん私も教えるから」
少しだけ驚いた表情を見せた後すぐに笑う。
「本当に面白い子、ゆっくりでよければねっ」
「ゆっくりで……ううん、ゆっくりがいいな」
『ゆっくりがいいな』は麻琴にはもちろん私自身にも向けて言った言葉。初恋の相手を見つけ私に刻まれた薔薇と蝶を見せることに焦っていた気がする。そんな胸の内は悟られないように私は自分に出来る精一杯の笑顔を麻琴に向ける。
焦っていた自分を差し置いて、実に自分勝手な態度だが別にいいじゃないか。好きな人の前で見栄を張ることの何が悪いと開き直る。
「お茶、入れるね」
麻琴がソファーから立ち上がる。
「あっ」
「クッキーでしょ。ナッツ以外もあるから」
思考が読まれてしまったことに驚きつつも、お茶とクッキーに釣られ私も立ち上がりテーブルへと向かう。
「じゃあ、どこから話そうか」
お茶を入れ椅子に座った麻琴と見つめ合う私は、今から始まる麻琴との時間に胸を躍らせ座り直して姿勢を正す。
ゆっくり。そう、ゆっくりでいい。
蝶々は小さくて止まり木にもなれないし、脆くて守ることも出来ない。でも止まって癒すことは出来るはず。そんな存在に慣れたらって思いながら麻琴の声に耳を傾ける。
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