7.大丈夫、何も問題ないの

 恭美はカメラが並んだ部屋で足元を探るように、恐る恐る進む。


「そんなに怖がらなくてもいいのに」


「で、でも……」


 私が笑いながら恭美をカメラに囲まれた中央に連れてくる。


「ここでコスプレ配信するんだけど、生の場合はカメラはもっと少ないけど、編集するならこれくらいかな」


 カメラに囲まれ身を強ばらせキョロキョロする恭美の両腕をそっと握ると、体は更に強ばってしまう。


「このカメラのレンズの向こうに、人の目がある。それは一人かもしれないし、何百、何千かもしれない。恭美はこの中で何をする?」


 恭美は一通りカメラを見て音を鳴らして唾を飲みこむ。そして静かに首を横に振る。


「何もできない……」


「ここでパフォーマンスをする、自分を見てもらう。自分の言葉を聞いてもらうにはそれ相応の覚悟を持つか、何を失っても構わない開き直りが必要かな。どちらにしても必要なのが、自分を知ることだと麻琴は思うんだ」


「自分を知る……」


 唇を指で押さえ、視線を下に向けてつぶやく恭美に私は言葉を続ける。


「そう、絶賛の声ばかりじゃない。いわれのない誹謗中傷や、好奇の眼差しに晒されてもそれでも人に見てもらう為には、自分を知って自分を見失わないことが大切じゃないかな?」


 そこまで言うと、恭美は私に視線を向けて微笑む。


「やっぱり私には無理そうです。麻琴さんは強いです」


 尊敬の眼差しと言葉を向ける恭美に対し、私は恭美の手を取って首を横に振る。


「ううん、麻琴は弱い。人に嫌われるのがとても怖いの。だから麻琴は人の温もりを求めるの」


 恭美を抱き寄せ見つめ合うと手を頭の後ろに回し引き寄せる。


 鼻と鼻が当たるぐらいの距離で囁く。


「ねえ、恭美。麻琴は恭美のことが気に入ったわ。自分に悩み、塞ぎ込むんじゃなくてどうにかして殻を破ろうとする。そんな恭美の姿を見てたらもっとあなたのことが知りたい。そして麻琴のことを知って欲しいの」


「し、知って、知ってとはっ」


「お互い肌を重ねるの」


「は、肌を重ねるって! いえ、それはっ、わた、私たちお、女の子同士ですし、そのっ」


 顔を赤くしながら否定する恭美が可愛くてたまらない。


「大丈夫。麻琴男の娘だから」


「え?」


 恭美が今日一番の驚きの表情を見せてくれる。

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