6.カメラに目あり、マイクに耳あり
私は冷蔵庫に背中をつけたまま目の前にいるお兄ちゃんを見上げる。
私がお兄ちゃんと呼ぶ
実家は不動産経営でそれなりに資産家であり、私の両親が亡くなってから学校や住むところだけでなく、動画を撮影する為の施設の提供なんかをしてくれたりと面倒をよく見てくれる。
お兄ちゃんも私の希望を叶えてくれるために、叔父さんさんたちに働きかけてくれていて、この事に関しては凄く感謝している。
あの日以来お兄ちゃんは私に従順で、関係も良好だったけど婚約者ができて結婚の日が近づいて来たある日、私に「結婚しよう」と言ってきた。
男版マリッジブルーってことだと思う。私に依存していた面があったから、結婚してその関係が崩れるのが怖いといったところだろうか。
私はあの日と同じようにお兄ちゃんの唇にそっと指を置く。
その瞬間、お兄ちゃんの目の中に戸惑いと恐怖に近い何かが宿る。あの日と同じ目で私を見つめる。
「あの日言ったよね。麻琴はお兄ちゃんの幸せを願って、お兄ちゃんは麻琴の幸せを願うって。麻琴の言うことを聞いてねっていったはずだけど。……これがお兄ちゃんの答え?」
私が睨みながら強め言葉を放つと、お兄ちゃんの押していた手の力が緩む。
その手を少し乱暴に掴むと一瞬体を大きくビクつかせるが、一転私は優しく手を撫でながら微笑む。
「お兄ちゃんの幸せの形は麻琴がよく知ってるの。お兄ちゃんは
ここまで言うと、私から完全に身を引いたお兄ちゃんだが、更に大切な言葉を一言を伝える。
「ぜ~んぶ麻琴のためにね」
「あ、ああ。そうだった、ごめん」
「いいの、お兄ちゃんもお仕事に結婚と大変なんだよね。麻琴はお兄ちゃんの味方だから、悩みがあったらいつでもお話して」
「う、うん。本当にごめんな」
「いいの、いいの。折角ケーキ持って来てくれたんだから食べようよ」
背中にあった冷蔵庫に振り返り、ケーキを取り出すと私とお兄ちゃんはお茶をする。
叔父さんや叔母さんの近況を話したりして、さっきまでのことは嘘のように仲むつまじい兄妹のように過ごす。
「じゃあ、お仕事頑張って。叔父さんたちによろしくね」
「ああ」
短い会話を交わしお兄ちゃんを見送ると私は扉を閉め台所へと戻る。
「めったにないけど、たま~に、こんな感じになることあるけど大丈夫そう?」
誰もいない空間に向け私は言葉を投げ掛ける。
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