5.囚われの狩人

 夢も見れないほどの深い眠りから覚める。深い深い穴から這い出る感じは自分が虫にでもなったような気持ち悪さがある。


 頭が痛い。


 ゆっくりと目を開けると真っ暗な闇。目を開けるのを失敗したのかと錯覚する。

 もう一度目を開けてみようとするが、これ以上は開かないことで自分が目を開けていることに確信する。

 それでも目の前が暗いということは何かで覆われているということだろうか。


 手を動かそうとするが、何かが邪魔して動かすことが出来ない。次に足を動かそうとするが動かせない。

 動かそうとすると手首と足首に圧迫感を感じることから、何かで押さえつけられている感じだ。体勢から座っていて椅子か何かに縛られているのだろうか。


 声を出そうとしても何かが口を押えていて声も出せない。


 鼻息荒く、ふうふうと息を吐くことしか出来ない。


「目が覚めた?」


 聞きなれた声が近くで聞こえ、僕は声の方に必死で体を向けようとする。だが体を拘束する何かが邪魔をして思うように出来ない。


「無理して動かなくていいよ」


 優しく語りかけてくる声が誰なのか確信を持った僕は興奮を隠せず、喋ろうとするが口は塞がれていて声が出せない。


 前にあった気配が僕の後ろに移動すると首の左右に触れるものがある。冷たくて柔らかいそれは首の左右を這うように触れると胸元で重なる。次に頭に息が掛かり、背中に柔らかいものが当たる。


 視界を塞がれている分、触覚が敏感になっているからなのか、今の状況がなんとなくだが分かる。


 首筋に息がかかり、背中に押し付けられる柔らかい感触に健全な男として反応した僕は自分が服を着ていないことに気付く。


 肩に肘を置かれ、頭の後ろに手を回されるとふと口が軽くなる。何で塞がれていたのかは分からないが、口が自由になったことで僕は声を出そうとする。だが慌てていたのか長く塞がれていたからなのか上手く声が出せずにえずいてしまう。


「慌てないで、きつめに縛ってたから顎が痺れて動かしにくいはずだから」


 再び優しい声を掛けられた後、唇に指らしきものが触れ下唇を這いなぞっていく。それに伴ってゾクゾクと電流が走るような刺激が背筋に走り痺れるような感覚に陥る。


「水、飲んだ方がいいよ」


 そう言われ唇に当たったものはおそらくガラス製のコップで、濡れる感触は水だろう。


「普通の水だから安心して飲んで」


 コップが傾けられたことで水が上唇と鼻の間、人中じんちゅうを濡らしながら口の中に入ってくる水を、自身も驚くほど必死に飲んでしまう。水が凄く美味しく感じる僕の喉は相当乾いていたみたいだ。

 必死に飲み過ぎて水が気管に入ってむせてしまう。


「大丈夫?」


 咳き込む僕の背中をさする手の感触と言葉に温もりを感じた僕は、咳をしながら頷く。


「そう、良かった」


 視界は暗いままだが声の主が僕に笑顔を向けていると、そう思うと歓喜の感情で心の中から震える。


「麻琴ちゃんだよね! そうだよねっ! 僕は!?」


 名乗ろうとしたが口を縦に指で押さえられ塞がれてしまう。

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