冷たいキミの手を取る僕の想いは熱く
素人友
プロローグ
「ビジネス的な話も含めてだが、先進的な技術ってのは社会に根付かせるのにだいたい20年くらいかかる。一発ポンって置いただけじゃ誰も理解してくれない。誰も理解しないってことは、同時に社会に受け入れられないのと同じだ。だから、こういうのは小出しにして、反応を見ながら調整を加えて定着させていく。まあ、時には例外もあるがな」
一呼吸置いて、彼は続けた。
「社会に根付かせるのに重要なのは、若者だ。オッサンやジジイなんかに与えたところでアタマの固い連中だ。大多数が理解を示そうともしない。だが、君らを含めた若者は違う。ジジイどもの10年後はないかもしれないが、諸君らの10年後は24~28ほど。何かを成すのにちょうどいい頃合いだ。ここである程度カタチになってれば、オッサンどもが描いた技術は社会に吸収され、さらに数段上のモノが出来上がるだろう。今まではそうやって形成されてきたし、これからもその流れは変わらない」
コツ、コツ、と床を叩く靴の音が響く。
「しかし、技術を生み出す側、作り出す側に立てるのはごくわずかだ。興味も必要だし、バカじゃできねえ。これはテストでいい点数が取れたとかそういう話じゃねえ。テストでいい点を取れたとしても、それを使えるアタマがなかったら宝の持ち腐れ、バカと変わらねえ。逆に手先は器用でも考えるアタマがなきゃタダ小間使いだ。そんなの嫌だろう?なら、やることは1つ。考えることだ。疑問を持ち、考え、行動に移せ。そうすれば、知らなきゃいけないことは自然と見えてくる。いいか。『考える葦』が考えなくなったら、それはタダの葦じゃねえ。雑草だ。除草剤を撒かれちまえば枯れて終わる。終わりたくなければ、雑草に成り下がりたくなければ、考えろ」
教卓と思しき台に戻ると、天板に手を置いた。
「――と、ここまでがこの授業の前提になる。長くて悪いが、俺たちも時間がない。伝えるべきことはこの瞬間に伝えるしかないんだ。悪いな」
フッとニヒルに笑ったが、その笑顔はどこか儚さすら感じる。
「本題だ。これまで俺たちは連中に技術を預けてきた。これは同時に我々が便利になると思い作ったもので、事実誰もがその恩恵に預かってるだろう。今まさにこの瞬間もな」
「――だが、」
彼は教卓から手を離して画面の右側に歩いていく。
「俺たちは連中に技術を渡しすぎた。そのツケはもうすぐ来る。俺はそれを確信を持って君らに伝える。言っておくが冗談ではない。鼻で笑ったヤツ、あとで痛い目にあっても俺を恨むなよ?」
危機感があるのかないのかわからない言い方に、ふ、と息が漏れた。
「誰かが言ってた一節がある。『罪は当人が償うべき。これだけは次の世代にゆだねるわけにはいかない。罪を未来に残してはいけない』ってな。これから起こるであろう惨劇は俺たち大人が犯した罪だ。俺を含め、大人がな。責任は俺たちにある。俺たちが償わなきゃなんねえ。けど、」
彼は口を結んだ。深呼吸をして落ち着いたのかと思ったら、その顔は悲壮に満ちていた。
「万が一、あっちゃなんねえけど、万が一だ。お前らに託すことになってしまったら、今ある繋がりだけは、次の世代に繋げてくれ。頼む」
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