第46話 「2日目の移動の前に」

「ハッ!アイツらマジでイイブツ使ってやがんな!」


屋上から外に出てミナさんとその仲間のみんながヒューマノイドが落とした武器を片っ端から取っていた。


「ねえ。これ全部持っていっていいの?」


仲間の1人が対物ライフルを手にミナさんに聞いた。


「いいだろ。ウチらは落ちてるのを拾っただけ。使えないはずなのになーんか知らないけど使えるようになる魔法がかかってたってな」


ミナさんもほかの人たちと同じようにヒューマノイドの頭を撃ち抜いた。ブシュー!と何かが抜けるような音がして、一気に装備が剥がれ落ちる。そして、その落ちた装備をミナさんがどんどん回収していく。


最終的に撃ち抜かれたヒューマノイドに残ったのは、皮膚として一体化してるスーツだけ。ミナさんたちはその装備を身につけて建物の中に戻った。


「よっし!こんなもんかな。っつーことでこれ全部頼むわ」

「全部持ってくんですか?」


装備のロックを外しやすくするためと、建物の中にあったロッカーを加工して装備を引っ掛けていくミナさんに聞いた。


「ああ。放置しておいたらやつらの武器になるだろ?なら置きっぱなしにしないで使ったほうがいい」

「はあ。ならいいですけど」


僕はテレコメガネをかけて作業に入る。作業自体は大したことないけど、何より数が多い。あまり一気に大量にやるとリスクになりかねないので、時間をかけてやる必要があるだろう。


「全部やったら武器屋でもできそうだな」

「この量全部やったら、でしょ?にしても人遣い荒すぎじゃない?アタシでもこんなやり方しないよ?」


仮想空間のシステムによってかけられたロックを外してると、優佳さんが言った。


「しょうがねえだろ。できるのがコイツしかいねえんだ。ほかに対抗手段があるわけでもない。なら、やってもらうしかねえだろ」


ミナさんはそう言ってサラミのパッケージの封を開けた。


「少なくとも狩村は今のお前らよりずっと役に立ってる。文句があるならてめえが動け。なにもしねえヤツがケチをつけるな。ケチをつけるくらいならこの状況を抜ける打開策の一つでも出せ。ギルドマスターなんだろ」

「……元ね」


優佳さんはシステムのロックを解除した銃を手に取った。


「やらなきゃやられる。だからしょうがない」


言い聞かせるように呟いた。


「優佳?」

「大丈夫。ギルマスの前はバーサーカーなんて言われてたんだから」


心配そうに声をかけた蓮花さんに優佳さんは優しく応えた。


「ここで死ぬって決まったわけじゃない。吹っかけてきたのはあっち。なら、闘う理由はちゃんとある」


覚悟を決めた優佳さんはガチャとハンドガンのスライドを引いた。


「行こう」



日が落ちる前にと移動した先は砲撃が届いてない場所にあった建物だった。僕らが住んでる家に行ったほうがいいんじゃないか?なんて話もあったけど、川を渡るための橋が壊れていたので、ナシになった。


「向こう側に行ければもうちょっとどうにかなると思ったんだけどなあ」

「しょうがないよ。橋が壊れてるなんて誰も思ってなかったんだから」


蓮花さんはそう言って優佳さんにスープを渡した。


ここに来るまでにあった戦闘は2回。いずれもミナさんたちが撃ち落としてしまったため、僕らが直接手を出すことはなかった。


「にしても巡回型ってあんなにいたっけ?てくらいいない?」


先生が蓮花さんからスープを受け取りながら聞いた。


「ああ。配備されたのは交代を含めて100だったはず。どっから湧いてきてんだか」


ミナさんがため息を吐いてると、優佳さんが首を傾げた。


「100?5000の間違いじゃ?」

「あ?」

「5000?ちょっと待って?5000ってどこから?」


先生も知らなかった話らしく、目を丸くしてる。


「え。この前の配備計画にあったじゃん。ねえ?って、見たの薫か。こーゆーとき連絡取れないの不便だわ。あ〜……そろそろ帰ってきて〜」


スープを飲み切った優佳さんは硬い床に横になった。


「配備計画?あったか?そんなの」

「仮想空間の掲示板にね。だーれも見向きもしないんだけど、たまたま眼に入ったんだよね」

「掲示板?」

「そそ。ネット上に出しても見ないからって掲示板を用意したんだって。役所前と駅んとこ」

「そんなの知らないぞ。なんで早く言わない?」

「聞かなかったじゃん」


しれっとした顔で言い放った優佳さんにミナさんの顔が歪んだ。そこに先生が割って入った。


「まあまあ。それで?」

「詳しくは知らないけど。更なる夜間の警備に力を入れるために〜とかなんとかって言って段階的に増やしてたみたい」

「現実世界の話を向こうですんのかよ」

「議員のほとんどが仮想なんだからしょうがないでしょ」


文句を言いたげなミナさんを優佳さんが睨んだ。


「チッ!で?」


ミナさんは舌打ちをして話の先を促した。


「そのときは5000増やすって書いてあっただけだから気になって薫に調べさせたの」

「気になった?なにが?」

「100だったのを5000まで増やすのか、5000増やして5100にするかってこと。仮想空間か現実世界かも書いてなかったからそれもあるけど」

「無茶苦茶じゃねえか。役人はなにやってんだ?」

「後で書き換えたんじゃない?ハンコもサインも向こうなら後でいくらでもパクれるし」


優佳さんは当たり前のことのように言った。


「え?パクれる?」

「パクれるよ?メディアの虚言癖と妄想癖がバレた後くらいに対策されたって話があったでしょ?あれぜーんぶウソだから」

「え……?」


先生が箸を落とした。


「予算を取ったって言ってたけど、それもウソ。あの人たちは何にもやってない。あー……やー……違う。予算は取った。けど、その予算は全部口止め料に使った。それだけ」

「ってことはなに?仮想空間にいるジジイどものポッケの中に入っただけってこと?」

「そ。高級ホテルかなんかを貸し切って何かやったって話までは聞いたけど、その先は臭すぎて聞くの止めちゃった」


優佳さんは炭酸入りの瓶を開けた。


「あ、なんの話だっけ?そうそう。そんなだから実際は5000か5100の巡回型がうろついてんじゃない?まあ、昼に結構やったから数は減ってるだろうけど」


瓶に口をつけると一気に煽った。


「その話がホントだとしたら今こっちにヒューマノイドはどんだけいるんだ?」

「わかんない。その話自体一昨年だから毎年だとしたら……下手したらここにいる人間より多いかもしんないね」


優佳さんはそう言って外の方に目を向けた。


「ねえ。もしかしてここをヒューマノイドだけにしたいってこと?」


ここまで一言も話さなかった紗耶香さんが口を開いた。


「さあな。ジジイどもの考えることはわかんねえ」


ミナさんはライフルを手にしたまま立ち上がって壁に寄りかかかった。


「どっちにしろ生きたいなら、巡回型の動きを止めるしかねえ」


ミナさんはそう言い残して目を閉じた。


「学校はどうなってるんだろうね?」


全員が完食したのを見て片付けをはじめた蓮花さんが聞いてきた。


「どう……か。わかんない。少なくとも砲撃が届いたようには見えなかったと思う」


僕らが通ってる学校の校舎がある位置は山と街のちょうど境目の場所にある。高台だけどやや奥まってることもあって、どこかが壊れても全体が壊れる恐れは少ないはず。


「気になるなら明日見に行ってみる?橋が壊されちゃったから見るだけしかできないと思うけど」

「うん。ちょっと気になるから行ってみたい」


片付けが終わって隣に座った蓮花さんの手が触れる。僕より小さいその手は小さく、何かから怯えるように震えていた。

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