第50話 「天然?」
優佳さんたちと別れてしばらく。ミナさんが強化兵と呼んでいた武装ヒューマノイドの目をかいくぐって別の建物の中に着いた。
「よっし!とりあえず今日はこのくらいにしとこうか」
ミオさんは重そうな荷物を下ろして伸びをした。
「もうですか?まだ行けますけど」
1キロ進んだかどうかくらいなタイミングで言われた僕は言った。学校の連中がどれくらい生き残ってるかわからないけど、少なくとも優佳さんたちにかかるリスクは一刻も早く減らしたい。
「あー……こういっちゃアレだけど、ウチら……って言ってもミナとミクは見ての通りだけど、それ以外の子はあの仕事してギリギリ今の筋力を維持してたからほどほどにしとかないと壊れちゃうんだよね」
「あはは……」とミオさんが力なく笑った。
それにしてはさっき屋上で山ほど撃ち落としてたような気がするけど、アレはほかの人だったんだろうか。
「ま、それ以外にも理由はあるんだけど」
「よいしょ」と置いた荷物を開けた。デニムに包まれたお尻が僕の方に向けられてゆらゆら左右に揺れる。
「ん~……これと~これ。それからこれってとこかな」
荷物を閉じると、ミオさんが手に何かを持って僕の方へ来た。
「まあ、急ぎたいのはわかるけど、どうやって止めるのかわかる?」
「どうって電源設備を壊せば――」
「じゃあ、その電源設備ってどこ?どう壊す?持ってるので壊せなかったら?言っとくけど、軍事施設に関係するとこだからそのメガネで見えるのはほんの一部だよ?」
ミオさんは手にした何かで僕のテレコメガネを指した。
「それも使えてるのはアイツらがそのメガネの存在を知らないからだし。敵地のど真ん中で使えなくなったらどうするつもり?ここは仮想空間じゃないんだよ?」
「そんなのわかってますよ」
「そう?リスポーンすればいいなんて思ってるんじゃない?できないから。何度も言ってるけど、死んだら終わり。ゲームオーバーじゃない。戻る場所なんてない。ゼロですらない無だよ。戦力もわからない、装備もない、要の装備が使えなくなったときの対策もない。そんな状態で突っ込むなんて自殺行為だよ。せめて装備と対策くらい用意して」
そうしないと置いてくぞ、と言われたようだった。
「キミとここまで来ちゃった以上、わたしはもう戻れない。守って、なんて言わないけど、生き残るためにはキミと一緒にいるしかない。少なくとも今は」
ミオさんは僕に向かって手にしていた何かを投げた。受け取ると、仮想空間で何度もお世話になった携帯食料だった。
「だからまずは状況を確かめよう。それを食べたらあの山に行こう」
ミオさんが後ろを指した。振り返ると砲撃で一部を穿たれた高台があった。
「今までの雰囲気、夜でもヒューマノイドは街中をうろついてる。山の中が安全ってわけじゃないけど――」
と、ミオさんは今後の方針を出してくる。身振り手振りで必死に伝えてこようとしてるんだけど、ホントに前線に立ったことがないらしい。聞けば聞くほど穴だらけでどうしようもない。いかにあの人たちに支えられて生きていたのかがわかる。
けど、意思はわかった。
僕は目を閉じて今までの状況を整理する。起こった出来事を一つひとつ紐解きながら感情を殺していく。
学校はあの雰囲気を見た限り、全滅。いや、全滅と言うには語弊がある?いや、こちらの戦力かどうかで考えれば全滅とした方がいい。街の中も同じ。そもそも現実世界にいる人間の数の方が少ない。そして、その大半を占める学校の生徒は仮想空間のゲームの一件で学校に集められて監視下に置かれていた。そう考えると、どのくらい不利かが見えてくる。
「……全部笑えるくらい絶望的な不利ですね」
僕が出した結論にミオさんは動きを止めた。
「え。そう?」
「ええ。すぐそこに犬のフンがあるってわかってるのに、そこに行ったら踏んじゃうくらい」
「あ~……あれねえ。わかってるのにホントに踏んじゃうんだよね。なんでだろ」
首を傾げたミオさんに僕は苦笑してしまう。
「科学的に解明されてますよ。意識がそっちに行くからって」
「そうなの?否定してんのに?」
「否定するから意識するんですよ。本当に踏まないようにするなら見えた時点でその動線から外れるのが正解です。動線から外れれば意識しなくてもよくなるので」
「あ~……そっか!あ、つまり、好きじゃない!って言ってんのに、ホントは大好きだった、みたいなモノ?」
「全然違います」
「あれ?」
ばっさり切り飛ばすと、ミオさんは「おかしいな。そんな話だと思ったんだけど」と悩みはじめた。
携帯食料の封を開けて口に入れる。蓮花さんが作った料理と比べると天と地ほど違う味にむせてしまった。
「あ、それわたしのだ。ごめんごめん。キミのはこっち」
ミオさんはそう言って白のパッケージの携帯食料を渡してきた。
「ごほっ!こんなの食ってんですか」
「マズいよね~。でもウチらが買えるのこのくらいしかなくてさ~。あ、食べた分はもらうね」
僕が食べる方の携帯食料から食べた分を折って僕に渡して、食べかけの携帯食料を受け取ると僕が口に入れた部分を外してミオさんは口に入れた。
「みんな食べることにあんま興味ないから結構テキトーなんだよね」
「その割にラーメン作ってんじゃないですか」
「あれは仕事。自分が食べることは考えてないけど、おいしいって思ってもらえればまた来てお金くれるじゃん」
ミオさんは何でもないように言った。
「だから蓮ちゃんが作ってくれたの感激したよね。なんでこんなクソみたいなの食ってたんだろって思っちゃうくらいに」
携帯食料が入ってた黒い袋を握りしめた。
「アイツら、絶対許さない。泣いて土下座しても謝っても」
ミオさんの目に火が灯った、ような気がした。
「力でねじ伏せても何にも生まれませんよ」
僕はミオさんに折られた残りの携帯食料を口に入れた。
「じゃあ、話せばわかるって?」
「そんな人たちに聞こえたんだったら聴覚センサーを交換した方がいいですね」
「修理じゃないんだ」
「修理より交換の方がいいですよ。それも古いのに」
「古いのに?新しいのじゃなくて?」
僕の言葉にミオさんが聞き返してきた。
「新しいのは合わないんですよ。パーツ的に」
「あ~……なんだっけ?ごかんせい?なんかミナが言ってたっけ。これはアタシに合わねえって拾ったパーツを見て言ってたな。あ、そういえばもらってきたんだった」
ミオさんは荷物を近くに引っ張りこんで開けた。そこには見たことある機器がゴロゴロ入っていた。
「なんだっけ?仮想空間にある装備のそうとうひん?って」
「そうとうひん?」
僕は何のことか一瞬理解できなくて聞き返してしまった。が、口に出してわかった。相当品だ。
「そーそー。時間なかったからもらうだけだったけど、ナオなら見ればわかるって」
荷物の中から1つを取り出す。機能性指ぬきグローブと言われたブツだ。初心者御用達の一品で、見た目がアレなわりに結構使えるって有名な装備の1つ。
「なんで仮想空間のモノがここに?」
「わかんない。ミナがパクったって。仮想空間にデータ化するときに一応チェックするために作ったんじゃない?わかんないけど」
「……」
思いっきり盗品だった。
どこが相当品だよ。と思ったけど、見た目はちゃんとしてる。僕は試しにはめてみる。
「わ。なんかアニメに出てきそう!あ!特撮かな!私にもなんかない!?」
僕らはミナさんがミオさんに渡した荷物を開き、あれこれ出しては装備して楽しんだ。
――日が暮れるまで。
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