第27話 「通知とお遊び」
「エリア拡大のお知らせ?」
通知を開いた蓮花さんが首を傾けた。
僕も通知を開いて読んでみる。
――サービス開始から1カ月となりました。1カ月を記念し、新たなフィールドを開放いたします。新たなフィールドは以下となります。
そう書かれた下には画像が付いていた。
――また、新フィールド追加に伴い、強化装備一式をプレゼントします。
通知に書いてあったのはこれだけ。
挨拶もなければ締めの言葉もない、必要な情報だけをメッセージにしただけの通知。
「山岳……だよね?」
画像を指して紗耶香さんが優佳さんに聞いた。
「って見えるけど」
と優佳さんは僕に目を向けてくる。
「まあ、どう見ても山岳だよね。それと平原」
砂漠の終わりから続く道は徐々に石が多くなっていき、草花が広がる平地に変わっていく。そして、その先には静かに壁のように佇む大きな山があった。
「一応つながってはいるっぽいけど、砂漠の端っこってこの辺でしょ?結構距離あるね」
優佳さんがマップを可視化して見せてくれた。が、どうも通知で送られてきた画像と砂漠からの位置関係が合わない。
そこから考えられるのは、これからの新規はここに入れるってとこか。
もしかしたら新規がちょうど慣れて戦えるレベルになったくらいで砂漠組がたどり着く、くらいの考えかもしれない。
「ん?」
ふと、画像の端に文字のようなモノが映った気がした。
僕は画像を拡大して表示してみる。が、拡大するとその部分は粗くなってよく見えない。
「どうしたの?」
「ここになんか書いてある気がして」
「どこ?」
「ここ」
と、僕が指すと、みんながくっつくくらいに近寄ってきた。蓮花さんは息がかかるくらい顔を近くに寄せて画像を見てる。
「え~?どこ?」
前の席にいる優佳さんと紗耶香さんも同じようにして僕が指してる画像に目を向けてる。
「拡大すれば見えるんじゃないの?」
「あ!」
紗耶香さんが拡大すると、蓮花さんが声を上げた。
「ちょっと!見えそうだったのに!」
「え?ゴメン。戻す戻す」
「もー……あー見えなくなっちゃった。ナオくん、どこだっけ?」
「や、僕もわかんなくなった」
そう言って画像を閉じようとしたところで、先生が僕の手を掴んだ。
「ちょっと待って。そのまま」
「え?」
先生はメニュー画面を開く仕草をすると、手をペンを持つような形に変えて何かをなぞるように手を動かす。
「ごめん。蓮花さん。ちょっと変わってもらっていい?あ。ごめん。やっぱいい。この位置じゃないと見えないや」
先生が手を動かすことしばらく。
「ふう。ごめん。あんまキレイに写し取れなかったけど」
先生はそう言って写し取ったメモを可視化してくれた。
「あなたに無限の死と生を――だって。ゲームのタイトルがわかったんじゃない?」
ガタッと音がした。
優佳さんが立ち上がった音だった。
「ちょっと通話してくる」
それだけ言い残すと優佳さんは教室を出ていった。
「薫に過去の通知を調べてもらうように言ってきた」
すぐに戻ってきた優佳さんはそう言って座った。
「でもヘンじゃない?なんで誰も気づかないんだろ?気付いてもおかしくないのに。あ、ここにもあった」
と、先生は通知の画像の角度をくるくる変えては写し取ってる。
「何かのメッセージ?にしては不穏すぎな言葉だらけだけど」
と、写し取ってく先生の手の後に残る文字は「生」や「死」に連なる文字ばかり。
ゲームと言われれば別に不思議なことはないけど、それにしても言葉の一つひとつが妙に心に残る。
「とりあえず身体動かしに行こ。いざってときに動けなくなりそうだし」
優佳さんは立ち上がって伸びをした。
「ん~……!っあ~……」
蓮花さんも立ち上がる。
「よし!ほら、ナオくんも行くよ」
蓮花さんに手を引かれた僕は嫌でも立たされる。
「ハルちゃん。使えるのってある?」
「一応備品は一通り使って大丈夫だって。前に聞いたらそう言ってた」
誰に?と思ったが、先生が僕と蓮花さんの方に顔を向けた。
「掃除だけが仕事じゃないって、怒られちゃった」
イタズラがバレた子供のような顔で先生が笑った。
「ここ。一通り使えるようにはしてある、といってもここに来たときの状態のままだから、ホントに使えるかはわからないけど」
とヒューマノイドは体育館の両サイドにある大きなドアを開けた。
体育館に向かう道中でたまたまこの前会ったお掃除担当のヒューマノイドに出くわした。先生が体育館を使うというと、「じゃあついてく。場所わかんないでしょ?」と付いてきたのだ。
「ここにいるから改善点があったら言って。すぐに直す」
「ん。よろしくね」
先生に頭を撫でられたヒューマノイドはドアの横に移動してそのまま動かなくなった。
「アタシ、お掃除担当って見るのはじめて。外にいるのとは違うんだね」
「まあね。怖がらせても困るでしょ?」
と、先生はバトミントン用のラケットとシャトルを取り出した。
「人数的にコレがちょうどいいからこれにしない?」
先生は僕らの分も取り出す。
と、蓮花さんがラケットに張られた網をいじりながらヒューマノイドに近づいた。
「これ、もっと強く張っていいよ。これじゃ打てない」
と蓮花さんがラケットを渡す。
「どのくらい?」と聞いてるのかのように首を傾げた。
「んっと、叩いたら跳ね返るくらい?コレをこうやって打ちあうから」
と、振り下ろす動作を見せた。
ヒューマノイドは受け取ったラケットを振って蓮花さんを見る。「こう?」と聞きたそうに。
「そうそう。そんな感じ。ラケットを手で叩いたら跳ね返ってくるくらいの強さかな」
蓮花さんが頷くと、ヒューマノイドも頷いて僕らのラケットを回収していく。どうやらあれだけで全部伝わったらしい。
「んじゃあ、とりあえずあの子が戻ってくるまでは……ん~使えそうなのはこれかな」
先生がそう言って出したのはバスケットボールだった。
「そんなのでいいの?勝っちゃうよ?」
「いいよ。仮想空間ばっかなキミたちに負けるわけないから」
優佳さんの言葉を鼻で笑うと、ボールを弾ませた。
体育館の奥にある半分のコートを使って1on1をやることに。勝った方が残り、負けた方が交代する方法でヒューマノイドが戻ってくるまで待つことにした。
「よし。じゃあ、じゃんけんね」
僕は真っ先に負けて一番最後になってしまった。
「よっわ」
「ナオくん、じゃんけんはマジで弱いよね」
優佳さんが僕の左に、蓮花さんが右に座った。
「うるさいな」
僕がそう言うと、2人は顔を見合わせてクスクス笑った。
「よし。じゃ、はじめよっか」
「ん」
ダンダンと紗耶香さんがボールを弾ませる。
ここには笛はない。お互いの息遣いだけが開始の合図。
と、紗耶香さんの足に力が入るのがわかった。
先生は僕がそう感じるのと同時に動き出す。
ゴールを守るんじゃなく、ボールを取りに行く方を選んだ先生。その横を紗耶香さんが抜けようとするが、取られてしまった。
「ふ。これじゃまだまだ甘い甘い。やっぱ仮想空間ばっかはダメだね」
「まだ本気じゃないし」
ドヤ顔の先生に鼻で笑って返す紗耶香さん。一息ついて目に力が入る。
「よし」
気合を入れた紗耶香さんはその後数回、ボールを取り返したが、結局先生には勝てなかった。
「あ~いい運動だった!」
「くっそー!!おのれハルちゃんめ!」
まだ余裕そうな先生に対し、紗耶香さんは肩で息をしている。
「へっ!私に勝とうなんて10年早いんだよ!」
先生はただでさえ主張の激しい胸を張ってドヤ顔を決めた。
「じゃ、次はアタシか。まあ、勝てるでしょ。あのくらいなら」
蓮花さんの「がんばって」の声を背に受けて優佳さんはコートの中に入った。
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