第33話 「日常という名の非日常」
話していた男子が離れてすぐ、僕の順番が来た。
「転校生も!」
と声をかけられてしまえば、嫌とは言えない。
男女で体育館を半々にしているため、僕だけ違うことをすることもできない。仕方なくコートの中に入る。
「なあ。昨日までずっとあの3人と一緒だったってマジか?」
「え?」
すごい真剣な顔なのに、聞いてきたのはため息が出るくらいどーでもいい話だった。
「マジ……っていうか、僕しかいなかったから」
「ファ~!」
「授業なかったんだろ?なにやってたんだよ?」
「なにって……」
そこからはみんな寄ってたかって質問攻めがはじまった。
「近江とかギルマスはまあ、置いとくとして、花村と一緒だろ?しかも隣の席。ずりーよなあ」
みんながうんうん頷いてる。
そんなこと言われても僕は蓮花さんの隣に座れ、と言われただけなのでどうすることもできない。
けど、ずっとあの女子に囲まれた席にいるのもさすがに飽きてくる。僕は試しに聞いてみることにした。
「変わってみる?」
「あ?あの席?」
「そうそう」
「いや、やめとく。ギルマスと近江に蹴られて穴が開くわ」
「穴は開かないと思うけど……」
尻を押さえてる男子にそうツッコミを入れたけど、男子は真剣な顔で言った。
「アイツらの後ろの席になるとな。蹴られるんだよ。マジで」
「ええ?」
「そうそう。ギルマスなんか思いっきり蹴りやがるからマジで穴が開くかと思うんだよな」
「ええ?」
「その反応ってことはまだ見たことないのか」
「転校生の前だからってアイツ、ネコ被ってんな。いいか。見た目に騙されんな。今見えてる凶暴さは全体の1パーセントくらいだぞ」
男子の一人がそう言って僕の肩を叩いた。
なんだか散々な言い方だけど、どこか納得できてしまうのがなんとも言えない。
そんな話をしてるうちに時間が経ち、僕らは教室に戻る。
「全員いる?隣近所でいないって人は手を挙げて」
先生は誰も手を挙げないことを確認すると、この後の話をはじめた。
「はい。じゃあ、このあとだけど、こっちで部活やりたいって人はやってオッケー。あ、でも向こうと違って強制じゃないから、2年とか3年の人たちが何か言ってきても無視で。向こうと違って見えない監視カメラが山ほどあるからね。ほかにも悪いことしたら課題の山と一緒にカンヅメにするから君たちも気を付けてね」
と、先生がいうと、「えー!」と声が上がった。
「1か月丸々来てないんだから当たり前でしょ!っていうか、やらなきゃいけないのを先延ばしにしてるだけだから、いつかやるんだよ!私は関係ないけど!」
教卓をバンバン叩く先生に蓮花さんがクスっと笑った。
「ハルちゃん先生っぽいね。最後ので台無しだけど」
「アレがなかったらハルちゃんじゃないでしょ」
優佳さんの呆れた声が聞こえた。
「あ、帰っても平気なそこの4人はちゃんと帰ること!人数分しかご飯用意してないからね。残っても夜ご飯も寝る場所もないよ!」
「はーい!」
蓮花さんが声を出すと、終礼は終わった。
「さって!じゃあウチらは帰りますか!」
紗耶香さんが立ち上がった。
「どっか寄る?」
と、優佳さんが蓮花さんに聞くと、蓮花さんは僕を見た。
「薫さんが待ってるんじゃ?」
「あ。そっか。じゃあ、まっすぐ帰った方がいいね」
「よいしょ」と蓮花さんがカバンを持つと、4人で教室を出た。
廊下には部活に行く生徒と、これからどうするか話しながら歩く生徒たちであふれ、ゲームがはじまる前の喧騒が戻ってきた。
自販機がある場所を通ると、飲み物を買う人や近くにあるイスに座って話してる女子や男子の姿もある。
学校に泊まる、なんて日常から最も遠い位置にあるイベントにみんな浮足立ってるようだ。
「学校に泊まる方が面白そうだよね」
蓮花さんが隣でつぶやいた。
「たしかに」
校舎から出ると、人の気配は一気に消えて静かになった。
「あれ?」
蓮花さんも気づいたようで、校舎の方へ振り返った。
自販機がある場所にいたはずの人の姿がない。
「いたよね?」
「いた、はず」
「なにが?」
後ろにいた優佳さんが聞いてきた。
「さっき通ったとき、自販機のとこ人いたよね?」
「いたじゃん。めっちゃ。どうかした?」
首を傾げた優佳さんに蓮花さんが指をさした。
「あれ?んん?」
「やっぱヘンだよね?」
目をこすって凝らしてみてる優佳さんの反応に蓮花さんは確信を持ったようだ。
「ちょっと見てきていい?紗耶香も」
「え?あれ、帰るんじゃないの?」
ちょうど校舎から出てきた紗耶香を捕まえると、優佳さんは校舎の中に戻っていった。
しばらくして優佳さんたちが戻ってきた。
「どうだった?」
「帰ってから」
優佳さんは一言だけ言うと、それ以上何も話すことはなかった。
「お!さやちんじゃん。やほー」
家に着くと薫さんが出迎えてくれた。
「あれ?なんで薫さんがここに?」
「んなの決まってんじゃん。もー人遣いが荒いのなんのって。向こうに行って調べろって言われたから行ったら、今度は直ぐに戻ってこいだよ?ブラックすぎて笑えちゃうわ」
「しょーがないでしょ。あんなことあれば調べないワケいかないって」
「んしょ~」と座った優佳さんに蓮花さんが飲み物を渡した。
「マジでみんな来たんだ?」
「うん」
「で、IDが消えた、と」
「名簿にも名前がなかった。っていうか、名簿自体そもそも見れなくなったけど」
「ふうん。なるほどね」
医者が患者さんから症状を聞くかのように、薫さんは頷いた。
「薫の方は?どうだった?」
優佳さんが薫さんに聞いた。
「仮想空間の方はいつもと変わんなかったかな。ちょっと人が少ない気がしたけど、まあ誤差だと思う」
「なら、あとはウチらが見たアレがなんだ?ってとこか」
優佳さんは壁に寄り掛かった。
「紗耶香はちゃんといるの見たよね?」
「自販機のとこの?うん。ちゃんと撮ってあるよ」
紗耶香はそう言って手を動かすと、自販機があるスペースの画像を可視化してくれた。
間違いなく人がいて、ベンチに座って話している人や自販機の前に立って何を買うか考えてる人が写ってる。
「コレがどうかした?」
画像を見た薫さんが顔を上げた。
「人、写ってるよね?」
「写ってんじゃん。いっぱい」
「それがどうした?」と言わんばかりに薫さんは鼻で笑った。
「写ってるよね?奥がガラス張りなのも大丈夫?」
「はいはい。ってか、あたしもここの卒業なんだから知ってるっての」
薫さんはため息を吐いた。
「で?外に出たら誰もいませんでした~なんて言わないでよ?ホラーの時期はもう過ぎてんだから」
「って思うじゃん?で、コレよ」
優佳さんが薫さんに画像を見せた。
「……反射してるとかじゃないよね?」
「テーブルも自販機も見えてるのに?」
紗耶香さんも初めて見るようで、目をこすってる。
「え?いたよね?夢だったとか?」
「アンタ、寝てたの?バトミントンしながら」
「んなわけないでしょ。え、じゃあ、なにこれ?なんで誰もいないの?」
「アタシが聞きたいんだけど」
と、優佳さんが麦茶を煽る。
「ウチらはたしかに学校に行って帰ってきた。んで、朝学校に来たときは5人だけで、朝礼のときに一気に来た。で、そのあとは昼まで教室にいて、午後はずっと体育館で遊んでた。これは間違いない?」
「うん」
蓮花さんが頷いた。
「で、学校を出たナオと蓮花が気付いて、アタシが紗耶香と一緒に戻ってコレを撮った。ああ、それと、今学校には
優佳さんはそう言って紗耶香さんが撮った画像に写ってる生徒たちを叩いた。
「中に入るとちゃんといる。実体もある。けど、外から見るといない。これってなに?ウチらは何を見せられてんの?
薫さんは2つの画像に目を向けたまま何も言わなかった。
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