第55話 「サポートとは」
最初の砲撃から1週間が経った。
海側からの砲撃は止むことなく、絶えず撃ち込まれている。街の様子もすっかり変わり、きれいに整備されていた道路は瓦礫に覆われてしまっていた。
「ふう」
僕らはまだかろうじて残っていた建物の中に入って一息つく。
「どうですか?それ。ウワサだと刃こぼれしないって話でしたけど」
僕はミオさんに話しかけた。
「ぜーんぜん余裕。ってか、使ったら切れなくなるっての忘れてたよ」
ミオさんは「あはは」と笑った。
「でも、これ向こうじゃチートって言われるかもね」
「そうですか?」
「だって見えれば銃弾だって切れるんだよ?やばくない?」
「そうですか?見えなきゃ意味ないと思いますけど」
僕がそういうと、「甘いよ」とミオさんが言った。
「たしかに見えれば、って言ったけどさ。ヒューマノイドだったら見えるんだよね」
「は?」
「行くよ」とミオさんの合図で外に出る。すぐに強化兵がやってきて僕らを殺そうと銃を向けてくる。
「ふっ!」
が、ミオさんの放った一閃であっさり斬り飛ばされてしまった。
「射線っていうの?」
とミオさんが打ち込まれる砲弾を斬りながら話しかけてきた。
「なんか見えるんだよね。点みたいなのが。ふっ!」
そう話しながらもミオさんは強化兵を次々と切っていく。
幸い、まだ対策が取れてないようで、出会った強化兵はほとんどミオさんの手によって始末されている。
僕はというと、ミオさんが倒し損ねたり、うまいこと躱したりして生き残った強化兵をライフルで射撃で倒すだけ。
すっかり前衛と後衛が逆になってしまって、なんともいえない気分になっていた。
というか、刀で前衛ってどうなんだろう?飛び道具の方が上じゃなかったっけ?
なんて思いつつ、飛んでくる砲弾を撃ち落とす。
目的地が近くなってきたことで相手の攻撃がさらに強くなってきたのをひしひしと感じる。
「このまま突撃するんですか?」
やろうと思えばできてしまいそうなミオさんに僕は問いかける。
「まさか。ミナじゃないんだからやんないよ」
ミオさんはそう言って少しずつ僕の方に下がってきた。
「残弾数は?」
「そろそろってとこですね」
「ん~そっか。じゃあ頃合いかな」
「僕もそう思います」
いくら高速処理が可能な仮想空間といえど、新しい敵に対して即座に対応できるわけではない。どんな対策を取ればいいかを具体的に示すためにはある程度の屍を積み上げる必要がある。しかも向こう側からすれば、2つのまったくタイプが異なる敵だ。どう対応するか、規模をどの程度まで広げるか、なんてのを検討して実行に移すまでにそれなりの時間がかかる。さらに、最終的な意思決定は人類側だ。その人類側に反旗を翻してる今、新しい装備を構築するのは不可能と言っていい。
けど、何事にも例外は存在する。その最たる例が今、僕の目の前で繰り広げられてる状況そのものだ。
ヒューマノイド側が人類に銃を向ける、なんてゲームの世界だけだったはずなのに、今は実際にその銃口が僕らに向けられている。同じように、新しい装備を導入していても何の不思議でもない。
つまり、無許可で装備が新しくなる切り替わりのタイミング。それが僕らがシステムを落とす一番のチャンスになる。
それは僕と優佳さん、それからミナさんとミオさんの4人で話したときにそう結論づけた。
「にしても100万か。時代が時代なら英雄だね」
僕にも見えるように可視化したスコアを見たミオさんが言った。
「人を一人殺せば人殺しであるが、数千人殺せば英雄である、でしたっけ?」
どこかで見た言葉の引用だけど、ミオさんはそのさらに上の数字まで到達している。数千で英雄なら、ミオさんはもはや神といって等しいのかもしれない。
「って言っても、ヒューマノイドだからね。ヒトと言っていいのかは微妙じゃない?それにほら。上には上がいるし」
と、スコアの一番上を指した。
「スコア2000万ってなんですかね?そんなに戦艦ってポンポン落とせるモンじゃないと思うんですけど」
なんて言ってる間に500万が加算された。
「ミナはなんていうか、ヒューマノイドの中でも異常なんだよ」
「異常?」
「そう。仮想空間のゲームで一番最初にテスターとして送り込まれたんだって」
「え?テスターってヒトがやったんじゃないんですか?」
「やってたんだけど、ヒトがやってたのを自動化するためとかなんとかってね。なんかそんな話があったみたい。フル装備からだんだん装備を外されて、それでも勝てって命令されるの。仮想空間だから負けて死んでも強制的にコンティニューさせられてね。それで出来上がったのが今のゲームシステムだよ」
ミオさんはカバンからゼリー状のドリンクを取り出して口に含むと、一気に握りつぶした。
「ぷは」
「ミオさんも――」
「ん?」
「ミオさんも何かの実験を?」
「まあねえ。ウチらはみんなそう。自我を持ってるけど、電子上でしか生きていない存在。だから、不眠不休でなにをしてもいい。そんときはその程度にしか思われてなかったんじゃない?おかげでどっかしかに欠陥ができたんだけど、異常性で言えばミナが一番かな。だからわたしが作られたんだけど」
「だから?」
「そっそ。ミナのサポート。負荷を請け負う役。それがわたし。だから回復役で後方なの。ミナは前衛だから」
僕はスコアに目を落とす。さっきまで2500万だったスコアは知らないうちに桁が3つほど上がり、区切りのカンマが1つ増えていた。
「負荷を請け負う、か」
だとすると、ミナさんがここにいる今、その負荷を請け負うのはほかの仲間ってことになる。
「ミナさんのサポートってほかの人にもできるんですか?」
「ん~どうだろ?できないわけじゃないと思うけど、今までやったことないんだよね。ずっと一緒だったから」
能天気に言うミオさんの声に僕は一抹の不安を覚えた。
「優佳さん、大丈夫かなあ?」
「大丈夫なわけないでしょ!?なに言ってんの!?バカじゃないの!?」
ガラガラと屋根に落ちていく排莢の音を聞きながらアタシは机を叩いた。
「くっそ!こっちの方がラクだと思ってたのに!!」
「たいちょー!弾が足りないよ!早く次!!」
「あーもー!薫!向こうから転送してきて!」
「ムリ!こっちもてーいっぱい!!」
「まだー!?」
ドンドンと箱を叩くミアに頭を抱える。この間も対空機関砲から絶え間なく弾が撃ちだされ、攻撃機を落としている。
「っっしゃあ!!200機突破あ!!!まだまだいくぜー!!」
打ち出される弾の数だけスコアは上がり、あっという間に10億の大台を突破した。
「スコアが一定値超えたらなんかボーナスが出るとかないの?」
「ユウカちん!そんなの最前線にあるわけないじゃん!弾切れになったらみんな仲良く灰になるだけ!」
叩く音にリズムを付けはじめたミアがそう言ってる間にアタシはキーを打ち込み、新しい弾丸をミアの前に落とす。
「空になった薬莢を箱の中に入れといて。次に使いまわすから」
「あいあい!」
ビシッ!と敬礼してミアは屋根の上に向かった。
「にしても、この家。どーなってんの?」
「ね。まさか床をはがしたらシェルターが出てきて、スイッチを押したら対空機関砲が屋根の上に出てくるんだもん。びっくりだわ」
しかもいつでも使える状態。ミナが嬉々として乗り込んだのは言うまでもない。
この家の全システムはナオが持ってきたこのデバイスでやる。というか、このデバイスじゃないと間に合わない。
「ミナ!そろそろチェンジ!」
「あいよっ!」
アタシの声を合図にミナは別の対空機関砲に乗り換える。この間にほかの連中はメンテナンス作業をする。
表示されてるウィンドウは常時10を超え、アタシは常にそのモニターをやってる。いい加減、誰かに代わってほしいけど、代わっても休憩が取れるくらいラクなモノはない。
だからアタシはこう叫ぶしかない。
「あー!もー!ナオ!早く終わらせてー!!」
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