第42話 彼女からの告白<2220.09.23>
男として、人として小さいのだろうかと随分悩みもした。
両想いのはずの高島さんが、早朝から日が暮れるまでの終日、複数の男性といちゃついているのを見続けて、平気でいられるものだろうか。その間僕には一切話しかけてはこない。確かに、夕方近くに僕の名前を連呼していたけど、話しかけられたわけではない。
昨日今日好意を抱いたのであれば、まだ受け止め方は違っただろうとは思う。でもこの時点で僕が高島さんに一目惚れしてから2年近くの時間が経っており、それほどの時間想いを重ねた女性が、目の前で男性と2人で押し入れに入ってはしゃいでいるとか僕には耐えられなかった。
器が小さいのかもしれないけど、こうした振る舞いを続けている高島さんと終日一緒にいただけでも当時の僕として頑張ったほうだと思う。
朝から待ちに待った帰る時がやってきた。
先頭を切って勢いよく浅野氏宅を出て、駐車場の自分の車を目指した。
玄関を出たときの解放感と安堵感。
(はぁー、よーやく帰れる……)
車にとにかく急いだ。もう少しで車に手がつくくらいという所まで来て後ろから高島さんの声がした。
「布施さん……」
後ろから誰か付いてきていることに気付いていなかったためその声に驚いた。でも声の主が高島さんだったことから、ただでさえ振り切ってしまっている感情が暴走してしまった。
「なぁーにぃー…………」
高島さんの方に振り返りながら、限界まで出した大声で返答してしまった。大人げないとも思った。でももう自分の感情を抑えるなんてできなかった。
振り返った僕と高島さんは手の届く距離で向き合っていた。「布施さん……」と言ったきり、うつむいたまま立ち尽くす高島さん。気の強い高島さんがうつむいて恥ずかしそうにして立っている。こんな感情的になっているときでなければドキドキするはずのそんなシチュエーション。
何を言いたいのかはどこかで理解はしていたけど、冷静さは完全になくなってしまっていた僕には、もうそんなことはどうでもよかった。
あたりは暗く、街灯の灯りもない。そんな暗闇でただ向き合あって立つ2人。
恥じらったまま、押し黙って何か考えている様子の高島さん。
何も言わずそのまま車に乗って帰ってしまいたいほど感情的になっている自分を抑えるのに必死で、それでも高島さんの前で立ち尽くす僕。
どれほど沈黙の時間が経ったのだろうか。
「…………やっぱりいいです…………」
聞くなり返事もせず、彼女に背中を向けて車に乗り込んだ。エンジンをかけ、車をだした。走り出した車の中から、ルームミラーで彼女の様子をうかがうこともなかった。この時の僕にはそうすることしかできなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
自分より体格のいい男性が目の前で激高していても笑みを浮かべることができるくらい肝のすわった女性というイメージが僕の中では定着していた。
そんな高島さんは何故か僕とのことになると、この日の出来事のように何も言えなくなってしまう。どうしてそうなってしまうのか、当時の僕はまったく理解できないでいた。
この日、高島さんは僕に告白したかったのだと思う。まさかこの状況で「先月のコンサート楽しかったね」といった会話になるはずもない。
僕に告白しようとする気持ちから、おかしなテンションに朝からなっていたのだと思う。
でもよくわからない。この日までに僕から既に2回高島さんに告白しているのに、何故高島さんから僕に告白するのにここまで”度胸”が必要なのか。
高島さんは自信家の女性。そうはいっても全方位に自信があるわけではないのだと思う。こと男女間のことになると自信がなかったのだろうと思う。
だからこそ、この日がこのような出来事になってしまったのだと思う。
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