第60話 お礼の電話<2220.10.30>
観光地に行った日を、ある記録から10月28日としたものの、過去の天気の記録と記憶が一致していなかった。高島さんに告白した日は10月26日で間違いない。また、お母さんにお電話したのが10月30日であることも間違いない。観光地に行ったのはこの間だけど、告白した翌27日はありえないので、28日または29日のいずれかになることも間違いはない。となると実際は29日だったのかもしれない。29日の天気の記録と記憶は一致する。また、28日に行ったとすると、1日あけて高島さんの実家に電話したことになるので、不自然。この点からも実際は29日だった可能性が高い。
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社会人として夜学校に通っていたため、学校の終わる9時10分以降に電話することにした。学校のはじまる時刻の18時前だと、ご両親がご自宅にいらっしゃらない可能性が高いため、学校が終わってからお電話することにした。お電話するには遅い時刻であるものの、諸般の事情を考慮するといたしかたなかった。お母さんには電話した際に僕の事情を説明するほかなかった。
学校が終わってから車で路肩に駐車できるところまで移動した。学校の駐車場から電話することも考えたものの、学校の門が施錠されるため安心して電話できない。
高島さんの実家の固定電話に電話するためには電話番号を知っている必要がある。ただこの時には何故か高島さんの実家の電話番号を知っていた。どうして知っていたのかはわからない。これ以前に電話したことがあったわけではないので、何かの機会に誰かから教えてもらったのだろうと思う。
高島さんの実家には1度だけ行ったことがあった。植木代表が高島さんの実家に用事があるので一緒に行ってくれないかと誘われたので行くことにした。実家の前に駐車した植木代表の車の中で待っていただけなので、実家に行ったことがあるという表現はいささか誇張にはなる。行ったのはよかったけど、実家近くの道は複雑すぎて今ではまったく思い出せない。この時に植木代表から電話番号を教えてもらったのかもしれない。電話番号を教えてもらう機会があったとしたらこの時くらいしかない。
電話するにあたってひとつ大きな問題があった。お父さんが出られたらどうしようかという問題。ずっと考えてみたものの、結局電話する直前になっても解決方法が思いつかなかった。
お父さんが電話に出られた場合、知らない男性(僕)から電話がかかってきて、いきなりお母さんに電話を代わってくれという話になるのは、いくらなんでも怪しい人になる。かといって、過日のお礼とお父さんに説明するのも
いくら考えても結論がでそうにないことを考え続けても仕方がない。大変非礼なこととは思いつつ、万に一つお父さんが電話に出られた場合には、何もいわず電話を切らせていただくことにした。事情を説明していいのかがわからない以上仕方がない。
車通りも少なく、広い路肩に車を止めた。あたりは真っ暗で静まり返っている。
記録してあった携帯の電話帳から高島さんの実家に電話を掛けた。
「はい、高橋です」
お母さんの声だった。
「布施と申します。しんきろうであゆみさんと一緒に活動している者です」
「あっ、はいはい」
「遅い時刻にすみません。学校に行ってまして今しがた終わったもので遅くなりました」
「いえ、大丈夫ですよ」
「昨日いただきましたお土産のお礼を申し上げようと思いましてお電話いたしました」
「あら、よかったのに……」
「あっ、いえ、どうしてもお礼を申し上げたくて」
「ご丁寧にありがとうね」
「いえいえ、とんでもないです」
こうしてはじまったお母さんとの電話は10分近くお話することになった。お礼の挨拶だけして終わると思っていたし、何かそれ以外で会話をするようなこともないと思っていただけに、お会いしたこともないお母さんと10分の会話はかなりの長電話だった。
この電話での会話で覚えているのは冒頭の部分を除くと2つだけ。
ひとつは、僕の仕事は何をしているのか尋ねられた。僕の住む地域ではあまり一般的な仕事ではないので、それはどういうことをするお仕事なのかと細かく説明することになった。
お母さんに僕の仕事のことを聞かれるということは、高島さんも知らないのか、知っていても説明できるほど知らないのかのどちらかになる。実際聞かれた記憶はないけど、スッタフの誰かに多少説明した記憶があるので、後者だったのかもしれない。
しかしそんなことより、驚いたのはご自身の娘の性格について、聞いてもいないのに教えていただいたことだ。それは彼女の恥部なのではないかというお話も含まれていて驚いた。
今にして思うと折角そこまでお話していただいたのだから、こちらからも”探りを入れる”ような質問をさせていただいてもよかったのかと思う。実際本心では、何故お土産をいただけたのかを聞きたかった。
お母さんとこうしてお話できたのは大きな成果だったと思う。でも当時の僕は、この折角の貴重な機会を活かし切ることができなかった。
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