第59話 お母さんへのお礼<2220.10.30>

 高島さんのお母さんからお土産をいただいて、そのままというのは非礼だと思うので、お礼のお電話をすることにした。お土産の意味がきちんとわかっていれば、それなりの対応の仕方もあるのだろうけど、この場合僕の理解が足りないとかそういう次元ではないので、止むを得ずお電話でお礼するのがいいのだろうと判断したのだった。

 こうなるくらいなら、お土産物屋さんでお母さんと直接会ってお話したかったと思う。母娘で一緒のところでお話すれば、また違ったお話の展開もあっただろうし、会話の内容だけでなく、表情からも受け取れる何かがあっただろうから、それは僕にとってだけではなく、高島さんにとっても有益なことだったと思う。

 でも、それにしても、お付き合いもしていないのにお母さんに引き合わせるとはどういうことなのだろうか。正直少しも理解できそうな背景ではないのだけど、ただ、1年前に公演に来てくださったことも含めて考えると、少なくとも母娘の間では日常的に僕の話をしていたのだろうと思う。

 お付き合いしたいからとか、結婚したいからとか、大きな節目節目だけで僕のことをお話していたとは、流石に母娘では考えにくいと思う。

 お母さんと僕を引き合わせることができなかった理由は、それを企画した時点で想定していた2人の関係に発展していなかったことと、2日前に「待ってください」と言った手前、今引き合わせる状況ではなくなったからだろうと思う。

 2日前、高島さんに最初に電話した時に「30分してからもう1度電話して欲しい」と一旦電話切ることになったのは2つ理由があったのだと思う。

 ひとつは僕の告白をどう受け止めるのかを考えて対処する時間が欲しかった。そのために1度電話を切って、行きつけの喫茶店の女性店長に営業時間の延長を相談をしていたのだと思う。実際不自然なほど営業終了時刻が遅かったことと、普段から遅くまで営業しているのであれば、ほかにお客さんがいたのだろうけど、誰もいなかったことが理由。

 ただ、営業時間は遅くまでやっているお店もあるし、ある日の遅い時間にお客さんがいないことだってあるものなので、どちらもひとつの可能性でしかない。でも、そう考えないと、なぜわざわざ30分時間をあけてかけなおす必要があったのかの疑問のほうが残ってしまう。30分の時間をあけて電話した結果、告白の前に喫茶店に行くことになったのだろうと思う。

 そんなことより、そもそも告白しにくる相手と喫茶店に行くというのは普通ではないと思う。普通ではないことをしているのだから、こうした背景があったと考えても不思議なことはない。

 もうひとつは、既に当初と想定がずれてしまっているお母さんと僕を引き合わせる流れをどうするのかについて考える時間だったのだと思う。

 当初は僕とお母さんを引き合わせて3人でお話することを考えていたのだろうと思う。そうするために、1カ月前、早朝からかなりおかしなテンションになってまで自分から告白しようと決心していたのだと思う。でもその流れは実現することができなかった。

 でもこの時点でお母さんと引き合わせるための計画は実行にうつされていた。ただ企画の趣旨は公演の参考にということになっているので、何もお母さんと僕を引き合わせなければ問題はなかった。だから計画を中止したり日程を変更することもなかった。

 ところが、2日前になって僕は唐突に告白したことで、計画を修正する必要性に迫られた。その修正とは、この企画した時点より更に2人の関係を発展させることだったのだと思う。

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