第58話 お土産の意味

 県内屈指の観光名所にシンキロウメンバーで行くことを企画したのは、まず間違いなく高島さん。

 僕が高島さんに3回目の告白をしたのはこの2日前で、それも当日思い立って行動した結果だったことを踏まえると、その告白の前にこの観光は企画されていたことになる。実際告白の日に明後日また会いましょうというお話をしているので、間違いない。

 この観光名所を見に行くことになったのは、翌月の公演と密接に関わっていたからで、その参考にという趣旨ではあったのだけど、参考もなにも大人なら少なくとも1度くらいは行ったことはあるのが普通で、実際僕も何度も行ったことがあった。それに、この日のみんなの振る舞いを見ていると、実際勝手知ったるなんとやらという様子だった。だから隅々まで見ることもなく、ど真ん中を1往復しただけでになってしまって、観光とか参考とかの実態はなかった。

 この日この観光地に行ったシンキロウメンバーは、実際には後ひとり男性メンバーがいたので、高島さんのお母さんからすると(娘を除いて)独身男性3人、独身女性1人、既婚男性1人(植木代表)が娘と一緒に来ていたわけで、その中で僕にだけお土産を持たせたのは特別な意味があった……はず。

 ただ、お土産以前の問題がある。何もこの日の観光は、お土産のやり取りをするために高島さんが企画したわけではなかったはずだからだ。

 これより1年以上前の、僕にとってはじめての公演の日(2219年8月1日)に、高島さんのご両親がこの公演を見に来られていたのは、高島さんが僕のことを紹介したいからだったのだと思う。想定していたのは”彼氏として”だった。そうはならなかったけど。

 この公演の後、僕と高島さんの関係は具体的には何も発展するこはなかったものの、高島さんの中での僕との関係は発展し続けていて、この頃は結婚する相手としてお母さんとあわせたかったようだった。

 8月のコンサートで僕に何か言おうとしたこと、9月の引っ越しで僕に告白しようとしたこととこの日は無関係ではないはず。高島さんは僕とお母さんを引き合わせようと、この日をだいぶ前から計画していたのだろうと思う。

 ただ、この日実際にはお母さんと僕はお話をしていない。わずか2日前に告白してこの日を迎えたのだから、お母さんと僕がお話するとなると”ちぐはぐな会話”になってしまうので無理もない。

 高島さんにしてみるとお母さんと僕の引き合わせには失敗(実際には、お母さんは僕が土産物屋で僕のことを見ていたのだと思う。このお店の店員さんだったので。)したものの、僕が高島さんに告白したことと、この日僕がひどく落ち込んでいる様子とで、とても嬉しくて仕方がなかったようだった。その嬉しさから勢い余って「よいお年を」という捨て台詞になってしまった。嬉しいと怒った振る舞いをしてしまう高島さんらしい言動だった。

 ただ残念なのは、こうした理解を当時の僕にはできていなかったことだった。そもそも極端に自信を喪失してしまっているので仕方なかったと思う。とても前向きには捉えれないし、”嬉しいと怒る”というのは僕の理解の範囲をこえている。

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