第61話 言わなくても伝わる思いと想い……

 はっきりとした時期は覚えていないけど、お母さんにお礼の電話を入れた後の頃、高島さんが結婚するという噂を耳にした。いつ誰と結婚するという肝心な部分は何も伝わってはこない。ただ結婚するというだけで、それ以上の情報はなかった。

 大事なこと大切なことほど人に説明することはない高島さん。でも決めたこと、やったことは、聞いてもいないのに自分からまわりの人のお話をする性格。

 結婚することを決意したからまわりの人のお話したのだろうけど、肝心な僕に直接言ってはこない。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 同級生の寺尾君が大阪から年2回帰省してくる。彼が帰省してくると、空港まで僕が車で迎えに行くのがいつものことになっている。

 いつものことながら、いつものことだからなのか、寺尾君は帰省の日程を一切伝えてはこない。昔は分からないから直接聞いていたものの「言わなくても分かるだろう」で済まされることから最近は聞くこともなくなった。

 あまり寺尾君の帰省の日程は気にしないようにした。ある程度は気にするけど、それで迎えに行くことができなかったとしても仕方がない。

 事前に連絡してくることはなくても到着の連絡はある。「今着いた」と連絡はあるので、連絡があってから迎えに行くことになってしまう。唐突にやってくるので迷惑極まりない。

 長く付き合っている友人だけど、「言わなくても分かるだろう」がどこまで本気で言っているのかいまだに判然としないものの、そういう前提で常に行動してくるので、本気なのだと思う。

 こうした場面以外でも、説明しなくても分かっていて当然という主張してくることはままあることで、でも僕にはどうしたらそういう発想になるかすら分からない。

 このように聞きたいこと、説明して欲しいことはほとんど説明をすることはない。肝心なことほどそういう傾向がある。一方で、どうでもいいことはいくらでも話してくる。

 高島さんもそういう性格なのだと思う。紆余曲折はあったものの、高島さんからすると”布施さんは私の気持ちを正しく理解してくれている”と考えていたのだろうと思う。そう考えないと説明のつかないことが多い。

 高島さんの難解な性格に、結果的についていけていたのは、寺尾君との付き合いがあったからだと思う。

 でも僕からするとだいたいはわかるけど、だいたいはだいたいであって正確ではない。それに肝心なこと大切なことほど”言葉にして伝えて欲しい”と誰しも思うものではないのだろうか。

 僕から高島さんに2回目の告白することになったのは、高島さんも僕の口から気持ちを聞きたかったからではなかったのだろうか。

 高島さんからすると、僕は高島さんから大切なことを言葉にして伝えて欲しいと思っているわけではなくて、高島さんの気持ちはきちんと理解しているから、そのようにして欲しいという振る舞いを高島さんに対していてこないのだと思っていたのかもしれない。

 分かってくれているのであれば、あえて言葉にして伝えなくても大丈夫ということにはならないと思う。そうしたことはきちんと分かっている女性だと思っていたし、必要なことは適切に振る舞ってくれると思っていたから、あえてそうする必要、つまり高島さんから僕に気持ちを伝えて欲しいと思わせる振る舞いをすることもなかった。そうしたいと思えばそうするだろうから。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 僕から高島さんに3回目の告白をするまでは”結婚する”ことを決めていたものの、3回目の告白を境に、”退職して結婚する”とより具体的に発展していくことになる。

 お付き合いはしていなかったけど、僕は正しく高島さんの気持ちを理解してくれているという前提で動いていたのだろうと思う。そうでないと結婚まで話が進む道理がない。

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