第70話 期待と実際<2221.08.16>
当日を迎えた。
高島さんと結局どのように待ち合わせたのか覚えていない。
一緒に行って欲しいという場所は、結局高島さんの説明通りの場所だった。きちんと説明しきれなかっただけで、説明と実際とに違いはなかった。
小さな看板のある建物に入った。看板があるといっても一般的な2階建ての戸建てで、特に変わったところはなかった。
玄関を入ってすぐ右手にある部屋に通された。
部屋に入ると、年配の男性がひとりと、若い女性がひとり僕が来るのを待っていたかのようだった。
「失礼します」
「はい、どうぞ。そこに座ってください」
「あっ、はい、ありがとうございます」
年配の男性が今日色々と説明していただける方のようだった。先に来ていた若い女性は僕と一緒に話を聞くために来ていた。
(はぁ~、結局高島さんの言っていた通りだったのか…………)
かなりがっくり来ていた。高島さんからお誘いの電話をもらってからというもの、来る日も来る日も、いよいよ高島さんの僕に対する気持ちを聞けるのかと思い描いていただけに、その落胆ぶりは半端ないものだった。
一応熱心に聞いているふりだけはしていたので、しだいにその男性の説明も熱を帯びてきていた。ときおり「いいときには〇〇〇〇万円稼いでね」と自慢話も入ってきてきたことで、いよいよつまらなくなってきてしまっていた。
誰がいくら稼いだとか興味がない。どんな仕事をしてきたのかなら興味があった。でも稼げるとか稼いだとか、そんな話に興味はなかった。
この時この男性が話をしていた商品がどんな商品だったのかは何も思い出せない。まったく興味がなかったこともあるけど、期待していたことと現実との違いに極端に落胆していたからだと思う。
結局扱う商品が変わっただけで、前回のブランケットと同じ商行為で、法律に抵触する行為と背中合わせであることに変わりはなかった
高島さんの友人の長谷川さんに、高島さんの説得をお願いをしたものの、法律については触れない方法で”僕からの伝言”をしたのだと思う。そうでないとこの日を迎える道理がない。
僕がその男性の説明を聞いている間、高島さんは勝手知ったる様子で、建物の奥へ入っていき、お茶を入れてきてくれた。
(もう何度も来たことがあるんだろうなぁ~……)
明るい表情を浮かべ、動きも軽やかで、嬉しくて嬉しくて仕方がない、そんなふうに振る舞っている高島さんを尻目に、僕は途方に暮れていた。
(今度高島さんを説得するとしたら自分でやるしか方法がないけど…………無理かな…………)
トラウマを抱えていたので、自分で説得できる自信はまるでなかったし、もうそんな気力すら無くなってしまっていた。
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