第41話 彼女からの告白_布施さんを連呼
帰るきっかけを必死になって考えている時に高島さんから想像もしない言葉を聞いた。
「そういえば今日放送じゃなかった? 先月行ったコンサートの放送。何時からだっけ?」
この放送が本当に偶然この日だったのかは、今でも分からない。
(えっ、何それ、あれやっぱり放送するの? それが今日って……冗談でしょ…………)
いくらなんでもタイミングが良すぎる。そもそも、引っ越しがこうもあっさり終わるなら、わざわざ朝早くから作業することもなかったわけで。それに、あのお昼ご飯の段取りの良さは何だったのだろうか。そこにきて、このタイミングでコンサートの放送があるとか、どう考えてもたまたまそうなったとは考えにくい。
(いくらなんでも段取りが良すぎないか?)
コンサートの放送を一緒に見ないという選択肢はないか必死に考えてみたものの、僕が行っていないコンサートならともかく、一緒に行っているのに見ないのは無理があるとしか考えられなかった。
(無理だ。残念ながら見るしかない……はぁー、もぅー、どうしてここまでに帰るって言えなかったのかなぁー…………)
テレビの前に集まっているみんなをよそに、そのみんなとはわずかに距離を置いて、ひとり静かにテレビを見ることにした。この頃には極度に不機嫌になっていて、僕の表情にもそれはでていたのかもしれない。
(放送は2時間くらいだろうか…………長い…………)
放送がはじまった。行ったコンサートだから何もテレビで見なくてもという僕の思いとは別に、コンサートに行った人は行ってない人にあれこれ説明を加えながらみんなで見入っている。
しかし、流石にプロが収録しただけのことはあった。クレーンを使って撮影しているので、臨場感は生で見ていたのとは違っていた。また、カメラはステージだけを撮影していたわけではなくて、客席も撮影していたので、ステージ側からの映像も映し出される。
(ステージからはこんな風に見えていたんだ……)
興味なかったのに、感心だけはしていた。
クレーンを使って映す客席は、左から右へ、右から左へと思っていたより肉薄した映像になっていた。その映像を見た高島さんが叫んだ。
「布施さんだぁー…………また、布施さんだぁー…………あそこに布施さんがうつってる………………」
みんなの前で僕の名前だけを連呼している。
(やめてくれぇー、いくらなんでも恥ずかしすぎる……)
恥ずかしすぎてテレビの画面を見ることができなくなっていた。うつむきながら高島さんの僕の名前を呼ぶ声を聞いていた。
五井さんと僕が羽目を外した時、高島さんの様子がおかしくなってしまっているこに気付いても、すぐに大人しく振る舞うことができなかった僕のことを考えると、この日、朝から僕の機嫌が悪くなっていることは高島さんも気づいていても、彼女自身も自分で自分のことをどうにかできる状況ではなかったのだろうとは思う。
でもそんな高島さんの気持ちに思いを馳せられる余裕は僕にはなかった。
僕はうつむきながもみんながこの状況をどう思っているのかが気になって仕方がなかった。
「布施さん映ってないかなぁー…………」
客席が映し出されるたびに高島さんの口からは僕の名前がでていた。他に一緒に行った人の名前がでることは最後までなかった。
長かった放送も終わり、外も暗くなってきたので、僕から言いだす前にみんなかえることになった。
(結局最後までいるとか、どんだけ残念なんだろう俺……)
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