第6話 高島さんの引っ越し<2219.03.27>

 高島さんの引っ越しのお手伝いをすることになった。

 この引っ越しの前後、でもおそらく後になってから、植木代表から「高島さんは引っ越しの準備をなかなかしなくて、自宅や彼女の職場に行って箱詰めを手伝ったんだよ」と聞かされた。

 職場に行くことができるものだろうかと思いはしけど、植木代表夫人は高島さんと同じ立場(公務員)なので、そういうことができるのだろうと一人で納得していた。

 早朝、高島さんの自宅に集まったメンバーで、段ボールに入った荷物を3台の車に次々に積み込んでいく………ちょっと待って、まだ箱詰めされていない荷物があるではないか。それに照明もまだ外してない。周りを見渡すとみんな作業に夢中で僕だけが気付いているようで、照明が外されていないのを気付いている様子はない。

 気付いたものは仕方ない。自分で照明を外した。外した照明をおろそうとすると僕を見つめている高島さんと目があった。目があっただけで、特に話しかけられることもなかったが、どうも照明を外す様子を最初から見ていたようだった。

 荷物を積み込む3台の車の1台は僕の車だった。

 最初から予定されていたのかは覚えていないのだけど、僕は僕の車で高島さんの転居先に移動することは決まっていたように記憶しているので、たぶん最初から予定されていたのだと思う。

 もうひとつ気になることがある。高島さん曰く「移動中の話し相手に妹を連れてきました」と言っていた。

 荷物の積み込みが完了した。

「ではいきましょうか………」

 誰かがそういった。

 それぞれの車に乗り込んだ。積み込み作業した人全員が引っ越し先に一緒に行くわけではないといつ気付いたのだろうか。だいたいいつもこういう場合状況を最も把握できていないのが僕だと思う。

 積み込むときに10人くらい人がいたはずだったのだけど、車に乗車したのは5人だった。積み込んで荷物はおろして転居先に搬入する必要がある。おろすときはどうするのだろうか。2倍動けば済むといえば済むのだけど。

 残った人達から見送られながら車が動き始めた。3台の車に5人が乗車して………僕は一人なんだ。これから片道3時間………「移動中の話し相手に妹を………」というのは僕は関係なかったらしい。本人も違う車だし。

 僕と高島さんのすれ違いの有り様が、案外ここでわかるような気がする。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 転居先に車が着いた。


(転居前も2階だったけど、転居先も2階なんだ。女性はやっぱり気にするものなのだろうか………)


 転居先では人が待っていた。転居先で3人待っていた。なるほど、そういうことか。ここでようやく状況を理解できた。

 荷物の搬入が終わると丁度昼食時間になっていた。

 そのまま高島さんの部屋で用意されていた食事をご馳走になった。

 この食事の時の写真が残っている。

 用意された食事を挟んで、4人づつ向かい合っている。偶然だろうか、僕は高島さんの正面に座っている。

 そういえばどうしてこの写真を持っているのだろうか。

 後日、高島さんからこの写真を手渡されたことを今思い出した。高島さんの引っ越しのお手伝いをした写真を僕がもらう。観光したときの記念写真でもないのに。高島さんの意図を感じる。

 高島さんは食事が終わるとすぐに転勤先の職場に挨拶に出掛けていった。出掛けるときには着替えていたのだけど、いつのまに着替えたのだろうか。今更ながら気になるな。 

 帰路は3台の車に3人。

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