第16話 細い線で高島さんに<2219秋>
前に「高島さんの情報収集能力は極めて高い。それに、好意を持った相手のことを詮索する性格とあいまって卓越したものになる」と言ったことは当時の僕は肌で感じてはいたものの、このように言葉にできるほど、明確に理解できていたわけではない。
高島さんの詮索する行為を最初に確認できたのは、僕の合コンからの流れで、土井君を転居先探しに伴った出来事になる。誰かを頼って(相談)意思決定することはないし、意味ない行動もしないので、土井君を頼って物件を探したとは考えられない。土井君を誘ったこと自体に意味があるわけで、僕のことを詮索するためだったと考えられる。
仮にこの時に土井君から合コンの時のことを聞き出せなかったとしても、何かしらの方法で必ず疑問点は解決する。例え時間がかかっても納得いくまで詮索する。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
高島さんとは人の繋がりが無くて、いくらなんでも知り得ないことだろうと思っていた出来後がある。
僕の取引先に1件だけ飲食店があった。地元では有名なお店で、実家から歩いていけるお店だった。そこの女性社長から、お友達でピアノ教室を経営されている女性を紹介された。
どういういきさつでそうなったのかは思い出せないのだけど、その教室で歌のレッスンを受けることになった。ピアノ教室の女性経営者がピアノを弾いて、その前で歌う。
そんなレッスンを何度か受けたある日、その女性のご自宅に招かれて行くことになった。何のために行くことになったのかその理由は思い出せない。
その女性のご自宅でどんなお話をしたのかは思い出せないけど、ただ、地元で有名なある方の姪御さんだということを教えてもらった。この有名な方というのは政治家や芸能人ではない。
この時点で自分に何がおこっているのを当時の僕は理解していない。
ご自宅に招かれてからしばらくすると、今度は2人で飲みに行こうと誘われた。誘われるがまま、その女性よく行っているというお店につれていかれた。
フランス料理だったのだろうか、ワインを飲みながらの食事だった。ワインを飲む機会なんてそれまであまりなかった僕に、飲んだことのない白ワインをすすめられた記憶がある。思っていたよりとても美味しい(本心)と感想をその女性に言った記憶がある。お店での記憶はこれしかない。
お店を出て、その女性と駅を目指して一緒に歩いた。ここは
アルコールは比較的強いほうなので、それほど酔ってはいなかったけど、女性は結構酔っているようだった。しばらく歩いたところで、その女性が僕の左腕を掴んできた…………違う、左腕に抱きついてきたのだ。
驚いた。とても驚いた。ただ驚きよりも、この先どうしようという不安のほうが強かった。ただこのまま普通に帰れるのだろうかという不安が。
女性は本当に見た目ほど酔っているのだろうか?
左腕に抱きついているだけだと言えばそれまでのことで、手を握ったこともない女性から、”手を握る≒腕を組む≒腕に抱きつく”と、だいたい手を握るのと同じような行為をされているだけなのだろうと自分に言い聞かせて一緒にあるき続けた。
でも男女が手を握ってあるいているのを見かけたら、その二人は恋人以上の関係だと捉えるのが普通だと思う。ただの知り合いレベルの男女が手を握って歩くとは考えられないだろうし。手を握って歩く男女でそうだとすると、女性が男性の腕に抱きついて歩いている姿は…………ちょっと認識が甘かったのかもしれない。といっても、酔っているのが本当だとしたら、左腕だけで済むのならとも思える。
あれこれ思いを巡らせているいるうちに、無事に駅に着いた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
このピアノ教室の女性経営者との出来事は、すっかり忘れていたのだけど、つい最近思い出した。でも思い出しただけど、そのままにしていた。このピアノ教室の女性経営者と高島さんとは人の繋がりの無いからだ。
しかし、細い線で繋がっていた。
シンキロウの川原さん(僕より7歳くらい年下)という女性スタッフが、実はこのお店で以前働いていたことがあったのだ。でもそれは昔のことで…………そんな簡単ではなかった。確かに働いていたのは昔のことだったけど、この飲食店の経営者は女性。川原さんも女性。退職後も連絡は取りあっていることが後になってわかった。
ピアノ教室の女性経営者を僕に紹介したのが、この飲食店の女性経営者。
その後どうなったのか音沙汰無しなんてことはとても考えられないだろうから、何があったかは筒抜けだったのだろうと思う。
こんな男女の出来事がお2人の間だけで共有されていたと考えるのも無理がある。どう考えても拡散したと思う。
とすれば、飲食店の女性経営者から川原さんにも話が漏れたと考えても不思議はない。
同じ社会人団体で活動する僕の出来事を知った川原さんがそのままにしておくとも考えられない。どうしても女性スタッフ間にも伝わったと考えることにも無理はない。
ということは、この流れで高島さんにも伝わった可能性は十分にあり得る。
細い線で繋がってしまった。高島さんと繋がっているとも考えてもいなかったところから。
こうした場合実際にあった出来事より話が大きくなっていくものだろうから…………どう伝わったのだろうか。急に心配になってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます