第8話 別々の連休<2219.05.01~02>

 2219年のゴールデンウィークに、青ヶ島本島東側に位置する、東青ヶ島県に泊りがけで観光旅行に行くという噂を聞きつけた。噂によると高島さんも行くという。高島さん以外に誰が参加するのはこの時点ではわからなかった。

 それなら参加させてもらいたい。しかし誰に連絡すればいいのもわからない。そこで同級生の土井君に連絡してみた。

 しかし、彼は参加者ではないものの、半井なからい氏(僕より1歳年上)に聞けばわかるのではないかという。

 続けて連絡した半井氏によれば、車を1台レンタルして行くのだそうで、ただもう既に座席は全てうまっているという説明を受けた。

 座席が埋まっているであれば仕方がないと一旦は諦めたものの、目的地が分かっているのだから、自分の車を運転してでも一緒に行きたいと思った。例え宿泊することが出来なくても構わないとさえ思った。しかし、まだ日が浅い僕にはそこまで思い切ることができなかった。

 独身男女のほとんどの人が旅行に行くのに、連絡すらもらえなかったのはそこに何か意図を感じるのは考え過ぎなのだろうか。

 高島さんが転勤するために送別会を催したにもかかわらず、そのままシンキロウに残ったのは何故だったのかは、みんな考えたはずで、その原因がどこにあるかは一致した結論が得られたはずだ。

 そう考えると、僕がこの連休で仲間外れにされたのは理解できる。ただ、この当時の僕はこうした疑問点にすら気付いていない。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


(連休は一人かぁーーー………)


 そう思っていた矢先、植木代表から電話があった。青ヶ島本島最北端に位置する、北青ヶ島県の植木代表の実家に一緒に行かないかという。

 東青ヶ島(県)観光旅行に行けなかったことを誰かに聞いたのだろうか。気遣ってくださっていることは流石に理解できた。植木代表曰く、もともと北青ヶ島(県)の実家に帰省する予定にしていたので、よかったどうかというお誘いだった。

 植木代表の実家今はもう廃業したものの、以前は旅館だったという。植木代表の実家のことは、この時はじめて知ったし、そもそも、実家が北青ヶ島県だということも知らなかった。

「はい、是非」

 二つ返事だった。

 高島さんらが、東青ヶ島県のどこを観光したのか今でも知らない。聞いたこともなかった。聞こうと思ったこともない。僕なりの、ささやかな抵抗だったのだろうと思う。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 高島さん達が東青ヶ島(県)に出発した日と同じ日、僕と植木代表は、2人で一路、北青ヶ島(県)の植木代表の実家に向けて出発した。

 植木代表の実家は標高の高い山頂近くにあった。想像したより広い旅館だった。部屋がは多数あるものの、今は使われていないそうで、その中のひとつの部屋に案内された。

 案内された部屋でしばらく1人で待っていると、植木代表がこられ「折角だから山頂まで行こう。山頂からの眺望は名所なんだ」とのお誘いにのって、植木代表の車に乗り込んだ。


(名所って、そんなことってあるのか?)


 いぶかしくは思ったものの、また植木代表の車で山頂まで移動した。

 山頂まではかなり近かった。

 山頂からの眺望は、見晴らしもよく、遮るものが一切なかったので、開放的で怖いくらいだった。

 名所だと言われることに納得していた。わずかでも疑った自分が恥ずかしくなった。

 山頂からの雲ひとつない眺望は、憂鬱とした気分を晴らしてくれていた。

 風の音以外何も聞こえない山頂で植木代表が口を開いた。

「よし、じゃぁ、東青ヶ島組に電話してみるか!」

「はい」

 気分が高揚していたのか咄嗟にそう答えた。

 植木代表が最初に誰に電話を掛けたのかはわからないし、会話の内容も覚えていない。

 しばらく誰かと話した後、植木代表からそっと携帯電話を渡される。

「はい、お電話変わりました。」

「不施さん?」

「うん」

「高島です………どうして東青ヶ島(県)に来なかったの?」

「いや、半井さんに連絡したのだけど、もう座席が空いてないと言われたんだ」

「えーーー、座席なら補助席が空いているのにぃー………」

「えっ、そうなの………」

「うん………ところで、植木代表の実家に行ったんだって?」

「そうだよ。今、その実家近くの山頂に来ているところ」

「いいなぁー、そっちのほうが楽しそうだなぁー」

「………」

 記憶にある会話はこれだけしかない。「いいなぁー、そっちのほうが楽しそうだなぁー」は流石に衝撃的だった。近くにほかの人がいるだろうに、いいのだろうか。

 普通に考えて全国屈指の観光名所である東青ヶ島(県)を男女で観光するのと、おじさん2人で山頂からの景観を堪能するだけとでは、誰がどう考えても前者がいいに決まっている。

 しかし、この発言は僕への嫌がらせに対する苛立ちの表れだったのだろうと思う。性格がハッキリしているので、こうしたことで気を使うことはない。

 高島さんとの電話で一気に気分が高揚してしまった。

 続けて、北青ヶ島(県)組にも東青ヶ島(県)組にも参加していない土井君にも、植木代表は電話してみるという。

 通話を終えた植木代表によれば、土井君はなんと、北青ヶ島空港(北青ヶ島県)に女性二人と今向かって移動しており、これから3人でグアムに行くという。

 同級生ながらすごい、なんかすごいと直感的に思った。

 こんな面白そうな土井君を見ておかない手はないと、山頂からそのまま北青ヶ島空港に向かうことにした。

 土井君ら3人の離陸時刻は、これから山頂をおりても余裕で間に合うという。

 意気揚々として空港に向かった。

 空港に到着してからほどなく、土井君一行がやってきた。

 次第に近づいてきた土井君の表情はどういうわけか浮かない顔をしている。時間がないというので手短に理由を聞くと、当初女性3人で行く予定だったそうで、そのうち1人がいけなくなったため土井君が代わりに行くことになったという説明だった。

 あまりに想像と違う現実に面白過ぎるという感想と、どこか羨ましすぎるという感情の反動からほっとする気持ちが同居していた。

 てっきり意気揚々と闊歩してくるとばかり思っていたので、まるで女性2人の添乗員のような土井君の姿を満面の笑みで見送った。

 どちらも忘れられない思い出となった。

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