第39話 彼女からの告白_高島さん壊れる②
高島さんの転勤のタイミングでシンキロウを辞めたスタッフに浅野氏という男性がいた。僕より1歳年上で、戸塚氏と半井氏の同級生になる。浅野氏とは入れ違いでシンキロウに入ったので面識がある程度の関係でしかない。一緒に活動をしたことは1度もなかったので、親しみのある関係ではなかった。
どうしてそうなったのか、9月23日の早朝から浅野氏の引っ越しのお手伝いをすることになった。お手伝いは、戸塚氏と半井氏はもとより、土井君と高島さんも来ることになっていた。
当日の朝、浅野氏宅にそれぞれ自分の車で移動して集まってきていた。
指定された駐車場に車を止めて、浅野宅に入った。先着していた戸塚氏と半井氏は浅野氏と既に作業を始めており、玄関先にとめてあるトラックにいくつかの段ボールが積み込まれている状況だった。
浅野氏宅の中に入ってみると既に荷物は段ボールに入れられており、あとはその段ボールや家具をトラックに積み込みだけだった。早速作業に加わって、積み込みを作業をはじめた。
それからほどなくして、土井君と続けて高島さんが到着して作業に加わった。
が、しかし、何かがおかしい。どうにも高島さんの様子がおかしかった。いつもと明らかに異なるその雰囲気。そう、なんでか妙にテンションが高い。それもありえないくらいテンションが高い。
(引っ越しの手伝いでテンションが高いってどういうこと? …………)
何が起きているのか分からなかった。だから、かなり動揺していた。
ついさっきまでお酒を飲んでいて、そのままここに来ましたという雰囲気だ。見たことのない高島さんだった。
(大丈夫…………かな…………)
高島さんは作業を手伝いながらも、”僕以外”の誰かれとなく、とにかく話しかけており、本物の酔っ払いのような振る舞いだった。
酔っ払いのようなその様も見るに堪えないのに、”僕以外”のみんなに絡んでいるのを見るのは、僕にはたえられなくなってきていた。
荷物を全てトラックに積み込んで空っぽになった室内で、高島さんは更にはしゃぎまくって、挙句、半井氏と二人で押し入れに入って襖を閉めるのた。
(限界)
この時点で僕の高島さんへの感情が振り切ってしまった。
(無理)
もうどれほど普通に振る舞っているかもよく分からない。かなり不愉快な表情をしながら、トラックで荷物を固定する作業を手伝っていた。
ここまでおかしくなっているのにもかかわらず、僕には一切絡んでこない。会話をすることも一切なかった。
(ここに来てそれほど時間は経っていないけど、もう帰りたい。ガチで帰りたい…………)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2220年1月下旬の、僕と五井さんとの出来事を思い出した。
あの時高島さんは子供が乗って遊ぶ”お馬さん”で遊んで見せるくらいおかしくなってしまっていた。どうしてそこまでと思ったけど、この時その気持ちが理解できた。
僕と五井さんとの出来事の後に高島さんは僕の気持ちを確かめる行動を取ったけど、今の僕はただ感情的になるばかりで、そうした冷静な対応をとった高島さんの適応力に感心していた。
(僕には……無理だな。同じことできない……ゴメン…………帰るね。帰れたらだけど…………)
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