第19話 そんな方法あるんだ<2220.01.30>

 1回目の告白から5カ月経った。

 この頃はすっかり1回目の告白の傷は癒えていた。

 本人同士がシンキロウでの活動で顔を合わせているわけで、当初は彼女と顔を合わせること自体が嫌だった。それもいつしか過去のこととなった。

 そんな1月のある夜に、僕と五位さんとの出来事は、僕の中で彼女に対する気まずさを残してしまった。

 2220年1月30日の夜。

 この日はシンキロウのスタッフ全員が集まって、植木代表宅で打ち上げをすることになっていた。

 2間続きの和室の部屋の端から反対側の端までいつくかの、座卓テーブルが間を開けずに置かれて、スタッフが向かい合って座る。座席順なんてない。思い思いに座っていくスタッフ。

 僕は彼女に対する気まずさから、彼女が座る位置を決めてから座ることに決めていた。でも、彼女がなかなか座ってくれない。彼女が座らないと僕が座れない。

 何をしながら彼女が座るのを待っていたのかわからないけど、結局僕が最後になってしまった。並べられたテーブルに男女がランダムに座っている。きちんと数えたことはなかったけど20人はいただろうか。

 ようやくかと思い、自分の座れる場所を探してみた。

 無い。

 自分が立っている側に座れる場所が無い。座卓テーブルの間を通って向こう側に行こうにもテーブルとテーブルの間に隙間は1ミリもない。

 テーブルの両端は壁にピッタリくっついているように見える。

 困った。

 僕以外のスタッフは全員座ってしまっていて、ひとり立っている僕のことは気づかないようだった。

 僕が立っている側の反対側を見渡すと、1箇所だけ座れる場所があった。

 ただ、テーブルには所狭しと食事も置いてある。


(どうしよう…………)


 そうは言っても、自分の立っている側と、その向こう側に座るの二択しかなく、自分の立っている側はどう考えても座る場所がない。


(立っている側は無理となれば、どう考えても向こう側に行くしかない。となると、問題はどうやって向こう側に行くかになるな…………はて、どうしようか。左右の端から向こう側には行けない。テーブルとテーブルの間を通って行くこともできない。となると、跨ぐ以外に方法はない。でも食事が既に置いてある…………幸いまだ食事は始まっていないし、みんな談笑中だ。それにこれ以上待っているとかえって状況は悪化してしまう。大声で謝罪しながら行くしかないか…………そうしよう)


 意を決して「またぎまーす。ゴメンなさい。ホントごめんなさーい」そういいながらテーブルをまたいだ。


(誰か何か突っ込んでくるんじゃないだろうか…………)


「そんな方法があるんだ」

「うん」

 咄嗟に「うん」とは返したものの、突っ込んできたのは、よりによって高島さんだった。突っ込まれるのを恐れていたので、つい「うん」と返事を最小化してしまった。心なしか声が小さくなっていたようだった。


(今高島さん「そんな方法があるんだ」って言ったよな? そんな方法ってほかにどんな方法があるんだぁ? 跨ぐ以外に選択肢はなかっただろう…………ないよな…………ないはず…………ない…………いや、ちょっとまてよ…………「そんな方法…………」ということは、高島さんは他の方法を考えていたということなのか? 他の方法? うーん…………うーん…………ひょっとして高島さんの体格なら、自分が立っている側の皆に声を掛けて少しずつずれてもらうとか? そういうことなのか? だとしたら僕からすると、それこそ「そんな方法があるんだ」になってしまうな。 あっそういうことなのか。 なんだお互い様だな)


 最後は妙に納得してしまった。

 「そんな方法…………」と言ったのは、女性だから”跨ぐ”という選択肢がそもそもないという視点なのかと思った。それもあるとは思うけど、僕ほど座る場所に幅を取らないから、少しでいいからあけてもらえればいいという発想だったのだと思う。

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