第68話 空白の9カ月<高島さんの動向>

 2220年12月から9カ月間の記憶がほぼないのは、高島さんに関しても同じだった。

 2220年11月に長谷川さんに”高島さんの説得をお願い”してから、商品の販売に関する動向は、少なくとも僕に漏れ伝わってくることはなかった。記憶にないのがその証左だろうと思う。

 高島さんは、2221年の春から新しい公演の準備が始まって忙しくなっていったはずで、そんな高島さんを見学しているだけの日々を送っていたのだろうと思う。うっすらとある記憶の中では、そのような日々だった。

 当初、慌ただしく商品の販売の準備をしているように見受けられた高島さんの動向の記憶が、9カ月もなかったというのは、長谷川さんを介しての説得が功を奏したと考えて間違いないと思う。

 でも一方で、あれほど矢継ぎ早にあったイベントがピタリと止んでしまっているのは今にして思うと不思議に思う。この間高島さんはいった何をしていたのだろうか。

 まず2220年の12月には長谷川さんと高島さんは会ってお話をしたのだろうと思う。ただこの後の出来事を考えると、おそらく長谷川さんはこの時少なくとも法律上の問題は取り上げてはいないと思う。単に僕がこの商品の販売を嫌がっているとか、心配しているといった程度にしか伝えてはいなかったのだろうと思う。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 この商品の販売を高島さんに紹介したのを戸塚氏だと推測しているものの、もうひとつの可能性として飯塚店長の可能性もなくはない、ただ、この後の出来事を踏まえるとその可能性は低いと思う。なので、戸塚氏が高島さんに紹介したという推測でほぼ間違いないと思う。ただどういう経緯でこの商品の販売を紹介することになったのかを考えると、僕は不快にしかならない。

 高島さんが今の仕事を辞めるにあたって、退職後に収入を得る手立てがないか戸塚氏に相談した可能性も考えられるけど、事前に誰かに何かを相談する性格ではないので、その可能性はまず考えられない。

 僕が高島さんに3回目の告白をしたときに喫茶店で聞いた「戸塚さんと同じこと言っている」がヒントになる。高島さんは戸塚氏と彼の仕事についてかなり深く話を聞いていたのだろうと思う。退職後に自分の身の振り方を考える上での参考にと思ったのか、”相談ではなく”聞きこんでいたのではないだろうか。そう考えるとこれまでの出来事の点と点が線で繋がってくる。

 こうしてみると、やはりこの時期の高島さんと戸塚氏の接点の頻度は僕が思っている以上だったのかもしれない。

 僕が男として、人として器が小さいのかもしれないけど、2年以上の月日をかけて高島さんとお友達にすらなれていないと思っている頃、高島さんは僕との結婚を考えてのこととはいえ、戸塚氏とこうも頻繁に接していたのかと思うと面白くないこと極まりない。当時はここまで理解した上ではなかったけど、やはり高島さんと戸塚氏の関係は非常に不快に感じてはいた。

 高島さんからすると戸塚氏と会っていることに”後ろめたさ”は一切なかったと思う。気のない男性とは気兼ねなく会ったりできる性格なので。

 2219年5月の連休の高島さんとは一緒に行けなかった旅行で、高島さんは男性10人の中に女性ひとりだけだった。気のない男性に囲まれて旅行することも気にならないらしい。でも気になる男性がいる場合は別で、どういうメンバーで行動するのかは慎重になる。今なら”分かる気もするけど”、でもやっぱり理屈に感情は合わない。有り体に言えば、面白くない。

 自分に自信があるからできることなのだろうけど、そこに僕への思いやりや配慮が感じられない。

 こうした肝心なところでの配慮のない振る舞いが”すれ違い”の原因になっていたのではないのだろうか。

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