第51話 3回目の告白<2220.10.26>_高島さんと喫茶店へ

 2220年10月26日。

 引っ越しのお手伝いから約1カ月、この日までの間高島さんとどのように接してきたのか、そもそもどのような接点があったのか何も思い出せない。思い出せないのは特別なことは何もなかったからだと思う。ただ、11月上旬に予定されていた公演があったので、結構な頻度で会っていたとは思う。

 この日の仕事中に唐突に思い立った。

 

(今夜もう1度僕から告白しよう)


 当時どんな心境の変化で急にそう思い立ったのかわからない。ただ仕事中に唐突にそうしたいと思い立ったのだけは覚えている。

 18時より少し前高島さんの携帯に電話を入れた。これから高島さんに会いに行くことを伝えると、到着予定時刻には用事があって間に合わないという。30分ほどしてからもう1度連絡することで一旦電話を切った。


(用事ってなんだろう。いつになく曖昧な言い方だったようだけど、どんな用事なんだろう…………)


 用事があるという曖昧な返事は高島さんらしからぬ言い様で、何か含むところがあるように感じられたものの、今それどころではなかったので深くは考えないことにした。

 30分ほどしてからまた高島さんの携帯に電話してみた。会えることにはなったものの、何時に会うことにしたのかは思い出せない。ただ、この後すぐに出かけたとしても9時半前後の到着にはなる。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 高島さんの自宅前に到着した。

 高島さんを僕の車に乗せて、高島さんの行きつけの喫茶店に行くことになった。

 お店に到着し、店内に入ってみると他にお客さんはいなかった。今にして思うと、事前にお店に連絡してあったのではないかと思う。個人経営の喫茶店にしてはお店の閉まる時間が遅すぎるし、他のお客さんがいないのも不自然だと思う。ただこの時の僕にそんなことまで考える余裕などなかった。

 そんなことよりもっと不可解なのは、これから告白しようとしている僕を誘って一緒に喫茶店に行くとか意味がわからない。どういう意図があるのだろうかと勘繰ってみても、高島さんの思惑は僕の理解に及ばなかった。

 テーブル席に向き合って座って話はじめたものの、しばらくお話をしたところで途中1度トイレに立った。席を立ち高島さんに背中を向けてトイレへ。席を立ってすぐに気になる古い掛け時計が視界に入った。

 トイレを出た後、高島さんの座っている席に向かって少し歩き、すぐに左手の壁にある古時計に近寄ってみた。

 時計にはひとつも興味はなかった。ただ少し気分を変えたかったので、ちょっと興味ある振りをしてその古時計を見てみようと思ったのだ。


("30day"か。そんなに古い時計というわけでもないのかな?)


 興味ないから時計の知識があるわけではなかったけど、父からゼンマイで動く時計は、日数が短ければ短いほど古い時計だと聞いたことがあった。だからただそこだけを確認したのだった。そんな確認は一瞬でできるけど、何か知っている風を装うためにしばし観察してはみた。


(やっぱりよく分からない…………そこそこ古いのかな?……た、たぶん……きっと……それにしてもさっきから気のせいか高島さんに見られている気がするな。もっとも客は2人しかいないのだから…………いやでも女性店長とは仲がいいはずだから何も僕を見なくても…………き、緊張するなぁー…………)


 時計の観察を終えると高島さんの方に向きなおして、ゆっくり歩いて、さっきまでいた座席に戻った。


(あっ、時計のこと突っ込まれたらどうしよう…………)

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