第3章 高島さんから僕へ1回目の告白
第21話 中青ヶ島旅行<2220.02.12>_クルージング
それにしても同じ女性に2度ふられる(当時はそう思っていた)とは、顔が赤くなるなんてそんなレベルの恥ずかしさではなかった。
これからシンキロウの活動で高島さんと顔を合わせるのが恥ずかしくて仕方がない。高島さんの気持ちを察しているつもりで、ふられるとか考えられない
高島さんに誘われて外に僕が出たこと、車がバック駐車で玄関前にとめてあり高島さんが運転席に座っていたことはただの偶然だったのだろうか。
(思い過ごし…………かな)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
僕と植木代表ご夫妻と、ご夫妻の5歳の娘さん、植木代表宅の隣家の小学生姉妹2人、これに僕と高島さんの7人で中青ヶ島県に旅行することになった。この計画がいつ決まったのか、それをいつ僕が聞いたのかわからない。
青ヶ島本島の北西に位置する中青ヶ島県。青ヶ島本島最大の港を有しており、青ヶ島本島外からの観光客が最も多い。観光名所も多いが、賑やかなお祭りも多い。
2220年2月12日に日付が変わる頃だったと思う。1台の車に乗車し、一路中青ヶ島県へ。
植木代表宅を出発してから7時間くらい車を走らせたと思うけど、結局目的地に何時に到着したのかわからない。早い時間の到着だったので朝食はおそらくファミレスでしたのだろうと思う。
朝食を食べた後、最初の観光は、船に乗ってクルージング。
それほど大きくはない船に観光客が次々に乗り込んで行く。その乗り込む人の流れに僕らも入った。
(困ったなぁ……)
この流れのままだと、歩いて行った先にある客室に高島さんと一緒に入っていくことになってしまう。
(ひとつ間違うと隣り合って座ってしまう可能性も……このままではダメだ……)
視界に入ってきた客室以外の船の情報が欲しくて案内図を探してみるものの見つからない。
(例えば客室は2階もあって、この先の客室内からその2階に行ける……ということには……ならないんだろうなぁ……)
2階があると期待したいところだけど、それほど大きな船ではないのでおそらくは無理だと思う。でも一応それを確認したいけど、どうしても案内図が見つからない。
そうしているうちに、もうあと数歩も進んだら客室のドアに手が届きそうなところまで来た。歩きながら左右を確認してみると、左手に階段があった。
階段にチェーンをしてはなく、注意書きもなかったので、昇ってはいけないわけではなさそうなものの、多くの乗船者の誰一人階段を目指さない。
(おかしい……2階に何故みんな行かないんだ?……でもまぁ、このまま客室に入ると間違いなく高島さんの傍にいることになる。ダメだ。それだけはダメだ。もういい。後先考えて躊躇している場合じゃない)
ためらっている場合ではなかった。迷いはしたものの、このまま高島さんと客室に入っていくのは耐えられない。
(昇ってはいけない階段ではなさそうなのだから行こう!)
そのまま何も言わず、みんなから離れて左側にあった階段を目指した。列を離れる際みんなの反応が気になって一瞬だけみんなのほうを振り向いた。植木代表と目が合った。植木代表は少し驚いたような表情を見せていた。
(まずいなぁ、何か言われたらどうしよう……)
そうはいっても選択肢はない。とにかく先を急ぐ。幸い植木代表から声はかけられなかった。
階段を上がりきると、そこはデッキになっていた。天井がないので、青空がすがすがしい。壁がないので、風がもろに体に当たりとにかく寒い。寒すぎる。湾内とはいえ2月の洋上で遮るものがなく、風が体温を容赦なく奪っていく。デッキにはほかに人は誰もいないため余計に寒く感じられる。
(停泊していてこの寒さ。出航しても耐えられるのだろうか…………でも今更客室に戻るなんてできないしなぁ…………もうなるようにしかならない……か)
船が動き始めた。アナウンスも始まった。寒すぎてアナウンスが頭に入ってこない。停船していても寒いのに、動き始めると更に寒さが体にこたえる。
(みんな知っていたから昇ってはこなかったのだろうか?……)
観光よりもまずはこの寒さとどう向き合うかが最優先になっていた。それでも少しは寒さに慣れてきていたのか、ところどころで船がゆっくりすすむ時のアナウンスには耳を傾けることが出来るようになってきていた。でも、もう観光クルージングはどうでもよかった。
(客室は暖かいんだろうな……きっと……せめてカイロ、いや暖かい飲み物だけでもあれば……気が利かないな自分)
長かったのか短かったのかわからない時間が過ぎた頃、船は出航した船着き場に戻った。
船を降りるときか、船を降りた後みんなと合流して顔を合わせたはずなのだけど、その時の記憶はない。
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