第6章 結婚

第76話 閑話<五井さんのその後(1)>

 五井さんのその後について。

 ある日、僕の住む星野区で開催される「着付けコンテスト(※)」を見に行くことになった。行くというより行かないといけなくなった。どうして行くことになったのか、行かないといけなくなったのかはひとつも思い出せない。


※記憶の範囲で記述しており、正しい表現なのかはわからないです。


 コンテストで五位さんをはじめ、ステージ上で着物を自分に着付けていく女性達。僕には技量の差は少しもわからない。ただ見事だとは思った。

 このコンテストの最初から見ていたわけではなく、五井さんの出番に合わせて会場に行っているので、それほど長く会場にいたわけではなかった。五位さんは割と最後のほうだったので、会場に入ってからさして時間が経たないうちに順位の発表があった。

 五位さんが優勝した。

 あまりに理解の範囲をこえたことが目の前でおこると、案外どう感じていいものか分からないもので、このときはたぶんすごいことなのだろうなとしか感じられなかった。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 着付けコンテストを見に行っていた頃は、五井さんから頻繁に電話がかかってきていた。五井さん自身におきた日常の出来事について、僕に電話で報告してきていた。悪気のある電話ではないので無下にもできない。

 内容はほとんど覚えていないものの、お米を洗剤であらってしまったのだけど、どうしたらいいかとか、灯油をこぼしたといったのだけど、どうしたらいいのかといった、たわいもないものだった。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 ある日の夜、栗原ご夫妻宅の庭で夜にバーベキューをすることになった。その日の午後から僕だけが栗原ご夫妻宅でバーベキューの準備のお手伝いをしていた。

 半日かけて準備して、バーベキューの準備が終わった頃、急に体調が悪くなったので、ソファーで休ませてもらうことになった。体調は思いのほか悪く、まったく動けない。食欲もない。

 予定された時刻に合わせて参加者が集まってくる。焼肉の準備は万端整っているので、みんなは庭で楽しそうな雰囲気で食事と会話を楽しんでいる。

 僕が体調不良で横になっていることはそれぞれ到着したときに説明しているのは聞こえてはいた。

 高島さんも来ているのは声がするのでわかる。でも会話は大勢でしていることなので、誰が何を話しているのかまではわからなかったし、それを聞き取る元気もない。

 半日かけて準備を手伝って、結局僕は何も食べても飲まないで横になっているのだけだった。そんな僕を誰も心配して様子を見に来るわけではなかった。

 見に来て欲しいと思っているわけではなくて、むしろそっとしておいてほしかったので、それはそれでよかったのだけど、状況としてはそうだった。

 しかし、五位さんは違った。最初から最後まで頻繁に僕のところに来て「大丈夫?」と声を掛けてくれていた。ただ本当にどうしようもない体調だったので、嬉しさ半分と、そっとしておいて欲しいという気持ちが半分だった。

 寝込んでいる僕に声を掛けてくれたのは五位さんだけだったけれど、高島さんも庭から部屋に入ってはきた。声を掛けてはくれなかったけれど。いいように受け取れば声をかけないことが親切だと思ったのだろうし、悪く受け取れば嫉妬したのかもしれない。

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【実話】ダメ男に一目惚れした高島れいかのリアルなキセキ~スレ違いと号泣の果てに……いつまでも~ たたら @torioichou

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