第73話 高島さんの決めた<2221.08.16>

 3~4時間くらい、ひとりで悶々と考え続けた。

 その結果、ひとつだけはっきりしたことがあった。高島さんが商品を販売することに僕はかかわれないということ。知人レベルの僕が高島さんに何か言えることは何もないし、出来ることはこれまでに既にやってきた。だからこれ以上かかわることはできない。これだけははっきりした。

 ただ、今にしても思うと、「こういうの嫌だな」と、ただそれだけ高島さんに伝えるだけでも良かったのだと思う。難しく考え過ぎていた。この当時の高島さんの僕に対する気遣いの尋常じゃなかったことを踏まえると、「こういうの嫌だな」という一言で解決していたと今は思う。

 考えてもみれば、僕の高島さんに対する気の使いよう、つまり、高島さんの意思を尊重したいという気持ちと、高島さんの僕の意思を尊重したい気持ちは同じだったのだろうと思う。お互いに気を使い過ぎていたためにおこってしまった、すれ違いも多かった。


              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              


 寺尾君と約束した時刻になった。

 寺尾君と約束の場所で合流して、いつものように今日飲みに行く店を探し回る。いつもそうだけど、お店の予約などしない。行き当たりばったり。ただこの日は人が多くてなかなかお店がみつからない。

「どうする?」

「う~ん、そうだな…………あっ、いつもいっている喫茶店の1階に新しいお店できていたけど行ってみる?」

「………………どんなお店?」

「さぁ~行ったことないからなぁー…………ただ焼肉のお店だったように記憶しているけど」

「………………仕方ない、行ってみるか」

「ああぁ」

 行ってみると、どこも一杯だったのに、ここだけはガラガラだった。

「入るか」

「だな」

 お店に入って注文してビールから飲み始めた。お店の中は外の喧騒とは別世界とはいかなかった。

「ところで、今日日中何してた?」

「土井と一緒だったけど」

「えっ、ひょっとしてバーベキューを…………」

「そう」

 僕と土井君と寺尾君は同じ中学校の同級生。僕だけ小学校は違ったけど、同じ中学校に通って、高校で僕だけまた別になった。

 聞けば午後からべーべキューの買い出しからお手伝いをしていたそうだ。河川敷でバーベキューの準備を始めてから女性がひとり後からやってきたと言っていた。その女性こそ、その直前まで僕と一緒だった高島さんのことだった。

「何人くらい来てた?」

「7~8人かな」

「そっか、そんだけいたら賑やかだろうな」

「ああぁ、そうだな…………そういえば、後からきた女性が男性と話し込んでいたぞ」

「えっ……どんな話?」

「……その男性に向かって私決めたと……」

 前後何か言っていたようだったけど、「私決めた」が気になりすぎて思い出せない。相手の男性の特徴を聞き出すと、どう考えても戸塚氏でしかなかった。


(いったい今になって何を決めたと…………いったい何を…………)


 高島さんと戸塚氏の会話の内容も気になったものの、やはり二人の関係も気になって仕方なかった。


(僕の心配をよそに、いったい二人で何を話しているんだ)


 いつもそうしているように、今はバーベキューをしながら話し込んでいるのかと思うと、戸塚氏に対しても高島さんに対しても不快でしかなかった。

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