第56話 待たないといけない理由

 3回目の告白で高島さんとお付き合いすることが叶わなかった僕は、完全に自信を喪失してしまっていた。

 お互いに気持ちが盛り上がりきっているのではと思えている頃だったので、それでも「はい」と言ってもらえなかったことで、これから先、あと何がどうなればお付き合いしてもらえるのか完全に分からなくなってしまった。


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 高島さんに一目惚れしてからここまで2年近く、僕と高島さんとは多くの思いでを共有しただけで、心の距離が縮まっている実感はなかった。僕が一歩高島さんに近づけば高島さんは一歩後ずさりし、僕が一歩後ずさりすれば、高島さんが一歩近づいてくるようで、どうあっても2人の距離を縮めることはできず、かといって離れることもない。

 でも高島さんは違った。紆余曲折はあったろうとは思うけど、僕との関係は少しずつ発展していっているようだった。

 この頃の高島さんの僕に対する気の使いようは、まるで腫れ物に触るかのようだった。ただそれは、僕との関係性以外でみせる高島さんの自信に満ち溢れた様子とあまりに違い過ぎて、どうしてもどのようにそれを受け取っていいのか当時の僕には理解することができないでいた。


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 高島さんの言った「もう少し待ってください」をどう受け取ればいいのか、僕はこの先悶々と悩み続ける日々を送ることになっていく。それは、いかようにでも解釈することができるからで、「もう少し」とはどれくらいの期間を言っているのか、「待って」の待つ理由は、僕と高島さんの2人の関係だけの「待って」なのか、あるいは第3者がからんでくる「待って」なのか、真意をはかりかねていた。

 いつのことだったか、おそらく2回目の告白の後だったと思う。僕は高島さんにお手紙をしたためたことがあった。どうしてそうしたのかきっかけは思い出せないけど、意中の人がいるのだったら教えて欲しかったという内容で、でも高島さんからの返事はなかった。

 3回目の告白失敗で自信を完全に喪失してしまったこと、意中の人がいるかもしれない疑惑を拭い切れなかったこと、ここにきて目に見えて戸塚氏と接近していることがあいまって、とても「待ってください」の待つ理由を素直に受け取ることができなかった。

 考えてもみれば、高島さんの今住んでいる環境での人間関係はほぼ知らないわけで、言い寄ってくる男性も多いのだろうから、そこで気になる男性が現れたとして不思議ではないと考えるようになっていった。

 そう考えていくと、そもそも高島さんに彼氏がいてもおかしくはない。聞いたこともなかったし、教えてもらったこともない。僕と高島さんはお付き合いしているわけえもないので、彼氏がいることに何も問題ない。そう考えると、これまで2年近くお付き合いをはじめることができなかったことがむしろ納得しやすい。

 仮に彼氏はいなくても、本当に意中の人がいるのだとしても同じことがいえるわけで、どちらにしても意中の人がいるのではと送った手紙に返事がこなかったことに理解もできる。


(どうして今まで気づかなかったのだろうか…………)


 今まで高島さんに夢中すぎて、高島さんについて基本的な理解がまったできていないことに、ここではじめて気が付いた。

 高島さんの生活の中で僕との時間はほんの一部に過ぎないことを認識してしまって愕然としてしまった。

 自信を喪失してしまった僕と、ここから更に僕との関係を”ひとり”で発展させていく高島さんの距離は遠のいていくことになる。

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